Watch

私が映画を観て沁みた時の話。哲学研究者・永井玲衣

あの日あの時、観終えた後に感情が大きく動いた忘れられない一作。哲学研究者・永井玲衣が語る、胸に沁み入る物語に出会った時の記憶。

photo: Wataru Kitao / text: Emi Fukushima

連載一覧へ

“ガマ”のような映画館で、心に刻んだ普遍的な問い

骨を掘る男

私にとって沁みるとは、インクの“染み”のように知らぬ間に広がり、気づいた時には除去できない、忘れられない状態になることだと思っています。2024年に観た『骨を掘る男』は、まさにそんな感覚に誘う作品でした。

沖縄戦の戦没者の骨を探す、遺骨収集の活動に携わる具志堅隆松さんを追ったドキュメンタリーで、印象深いのは実際に遺骨を掘り起こす場面。ガマと呼ばれる自然壕に入り、「あともうちょっとだぞ」と声をかけながら繊細に土を掘っていきます。

映画『骨を掘る男』
©Okuma Katsuya, Moolin Production, Dynamo Production

一見小石や枝に見えるものが、彼には骨だとわかる。手榴弾を握ったまま自爆したんじゃないか。欠けや周囲の状態から、その最期を推察しつつ淡々と手を動かす。その一部始終を映画館の真っ暗な空間で観ていると、一緒にガマに入って立ち会っている感覚になるんです。体験として強く心に刻まれました。

同時に本作は、自身も沖縄出身の監督が“出会ったことのない人の死を悼むことができるのだろうか”との問いを探求していく過程でもあります。今も土の中にたくさんの遺骨が眠る中、その土砂を使って基地建設が進められ、その基地が多くの弊害をもたらしている。

今の沖縄の問題と地続きのこの問いは、観賞者にも突きつけられます。でもそれは同時に、考えることに参加させてもらえることでもある。忘れたくない、そして忘れることのできない重要な問いを授けてもらった気がします。

哲学研究者・永井玲衣

連載一覧へ