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川和田恵真×藤元明緒。カメラを通して映す、日本に暮らす移民の現実

日本に住む移民についての物語を描くという共通点を持つ、映画監督の川和田恵真さんと藤元明緒さん。2人が遠くにある存在を近く感じさせる、フィクションの力について語る。

photo: Jun Nakagawa / text: Tomoko Ogawa

知らない世界を知る、映画を生む人

藤元明緒

『マイスモールランド』を観て思ったのが、一般的に、クルド難民についての情報はあまり知られていない。近くにいても圧倒的に遠くにある存在なのに、誰にでも起こり得そうな親しみのある日常を入口にして、クルド人家族にグッと近づく。

ある人間、家族に特化した物語を通して、遠くにあるものと少し心が近づいたように感じさせてくれる映画だと思いました。

川和田恵真

藤元さんの作品を観ても同じように感じるんですが、例えば、前作『僕の帰る場所』でも、在日ミャンマーの家族を通して、彼らの置かれた状況が徐々にわかっていくけれど、前提の説明が極力排除されていて。かなりストロングスタイルですよね。

藤元

確かに、そこは真逆ですね。

川和田

私は一定の距離を保って見つめる距離感ですが、近くにぐいっと入っていくような体感型の藤元さんの作品は、エネルギーも使うけれど、そこでしか体験できないものがあるなと。

藤元

情報の部分は、後で調べてもらえばいいと思っていて。観ている人たちに一緒の時間を過ごしてもらうために、なるべく登場人物から得られる情報しか入らないようにしてます。

フィクションの可能性とは?

川和田

ドキュメンタリーにはドキュメンタリーの大切な意義があって、自分の外にある社会を客観的に知る方法の一つだと思います。一方でフィクションは、自分事として世界を見る体験になるという可能性を感じています。

藤元

僕の場合、クリエイティブな理由ではなくて。実習先から逃げて不法就労する人を映したら、その人が捕まってしまう。難民申請中の家族も撮ることは可能ですが、それをドキュメンタリーとして社会と共有する意味を僕は見出せなくて。

一度フィクションを作って、見た人がそこからまた現実に巡るような体験をしてほしいし、シンプルに、誰かの記憶がまた別の誰かの身体を通して表現される芝居というものを撮るのが好きなんですよね。

川和田

私もホームベースは劇映画の世界にある、と思っています。ちなみに、藤元さんが映画を作るときの一番のモチベーションって何ですか?

藤元

核にあるのは恐怖感ですね。『海辺の彼女たち』の場合は、日本で妊娠した外国人技能実習生の方がいて、亡くなった命があると知って。

ミャンマー人の僕の妻も同じような状況だったかもしれない。それを忘れないように映画にしている気がします。

川和田

私は自身がミックスルーツだからこそ、自分の国ってどこだろう?という疑問がずっとあって。その疑問に近づきたいと考えていたときに、国を奪われて、国外に逃れてもなお居場所すら持てずに苦しい生活をするクルドと出会った。

クルド民族は、国を持たない世界最大の民族でもあるんです。どうしてこうなるんだろう?という違和感や社会問題について、まず自分が知りたかった。でも、みんなにも知ってほしいという思いもあります。

藤元

シェアしたいというのはわかります。僕は映画って1本だけじゃ伝わらないんじゃないかと思ってて。『マイスモールランド』やドキュメンタリー『東京クルド』といったいろんな作品群が出てきて、視点が増えていくことを期待しています。

川和田

藤元さんは2作あるけれど、私はまだ1本なので、今後も作り続けたいです。

2人が描く移民を題材とした2作品