音楽とともに刻まれた、実在した作曲家の葛藤
ボレロ 永遠の旋律
もともと実在の出来事や人物をベースにした映画が好きです。中でも、絶望や苦しみの中で人が何かを作り上げていく過程にグッとくるんですよね。そんな自分のツボにピタリとハマった映画が『ボレロ 永遠の旋律』。作曲家のモーリス・ラヴェルが名曲「ボレロ」を完成させる過程とその後を描いた音楽映画です。

まず冒頭、さまざまなアレンジの「ボレロ」が流れ、その時点で観ている私の頭の中にもこの曲が強く刻まれます。次の場面では、楽曲がまだ影も形もなかった頃に遡るのですが、そこで聞こえてくる工場の機械音や、その後スランプに悩むラヴェルが反芻(はんすう)していく過去の辛い記憶が、頭の中で鳴り続ける楽曲とともに一層心に刻まれる。「早く曲を完成させてほしい」と一緒に苦しんでいるような気持ちになるんです。
ゆえに中盤、彼がようやく完成させた「ボレロ」が、映画館のダイナミックな音響を介して流れた瞬間は、何かが爆発したようにゾワッとして沁みました。撮影には一部、ラヴェルが実際に使っていたピアノを用いたのだそう。フィクションなので脚色や創作が含まれるのは当然ですが、実在した誰かの人生にドキュメンタリーのように触れられることにとてつもないロマンを感じます。
沁みた映画体験は、体の中にストックされていくような気がしています。スポンジみたいにぎゅっと絞ればまたその時の感情が溢れ出る。そうやって何度でも、心を満たしてくれるものだと思いますね。
