教えてくれた人:降矢 聡(グッチーズ・フリースクール主宰)
A24
話題作を量産。この会社を知らずして、映画界を語るべからず
2012年に設立されたA24は、間違いなくいま最も注目すべき制作・配給会社の一つ。関わったどの作品もインディペンデント色が強くてエッジが利いています。僕自身が注目し始めたのは、アカデミー賞をとった『ムーンライト』から。それで遡ってみたらハーモニー・コリンの『スプリング・ブレイカーズ』やソフィア・コッポラの『ブリングリング』も手がけていたことを知った感じです。
上記した作品もそうですが、創立メンバーに『サンシャイン・クリーニング』などを製作したビッグ・ビーチ・フィルムズのジョン・ホッジスや、ビースティ・ボーイズのアダム・ヤウクが設立した配給会社オシロスコープ・ピクチャーズ出身のデヴィッド・フェンケルがいるせいか、90年代から2000年代のいわゆるミニシアター系っぽい空気感をアップデートした作品が多いのが特徴。
あと、会社のロゴを多用したマーチャンダイジングや、監督たちによるZINEを販売しているところもいまっぽいですよね。会社自体をブランド化しようという強い意志を感じます。大きい会社の作品が総花的になる中、ここまで個性を際立たせながらも成功しているのはすごいですよね。
〈A24〉の代表作品
『ムーンライト』
2016年/監督:バリー・ジェンキンス/出演:トレヴァンテ・ローズ、マハーシャラ・アリ、ジャネール・モネイ
麻薬の温床となっているフロリダ州マイアミの貧困地区を舞台に、同性愛の傾向があるシャロンが生きる姿を、少年期・青年期・壮年期という3部構成で描く。第89回アカデミー賞作品賞受賞作。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
2017年/監督:ショーン・ベイカー/出演:ブルックリン・プリンス、ウィレム・デフォー、ブリア・ヴィネイト
フロリダのディズニーワールドのお膝元にあるモーテルで、母のヘイリーと2人で貧しいながらも元気に暮らしている6歳のムーニー。しかし、ヘイリーが稼ぐために売春に手を染めてしまう。
『レディ・バード』
2017年/監督:グレタ・ガーウィグ/出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ
カリフォルニア州サクラメントの片田舎で、恋や将来について思い悩む女子高生の姿をユーモアたっぷりに綴った成長譚。監督は女優としても人気上昇中のグレタ・ガーウィグが務めた。
『アメリカン・ハニー』
2016年/監督:アンドレア・アーノルド/出演:サーシャ・レーン、シャイア・ラブーフ、ライリー・キーオ
陰鬱な日々を過ごすティーンエイジャーのスターは、各地で雑誌の訪問販売をしている若者集団に出会い、一緒に旅に出る。スターを演じたサーシャ・レーンはフロリダのビーチでスカウトされた新人。
『イット・カムズ・アット・ナイト』
2017年/監督:トレイ・エドワード・シュルツ/出演:ジョエル・エドガートン、クリストファー・アボット、カルメン・イジョゴ
長編デビュー作『Krisha』で激賞された、1988年生まれの俊英シュルツの2作目の長編。夜になると訪れる“それ”の存在に怯える2つの家族を描いた心理ホラーだ。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』
2018年/監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル/出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ、トファー・グレイス
LAでその日暮らしの生活を送るサムは、謎の美女サラと知り合う。しかし、次の日に彼女は失踪。サラを探すうち、サムはこの街を取り巻く“ある陰謀”の存在を突き止める。
アンナプルナ・ピクチャーズ
巨匠レベルの監督作を、リリースし続けるのは、映画界のパリス・ヒルトン?
アンナプルナ・ピクチャーズは2011年に設立された、A24と同世代の会社です。どちらも映画好きであればまず観ているであろう作品を手がけていますが、その作風は好対照をなしているといえます。
実際、ポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』、デヴィッド・O・ラッセルの『アメリカン・ハッスル』、スパイク・ジョーンズの『her/世界でひとつの彼女』、リチャード・リンクレイターの『エブリバディ・ウォンツ・サム! 世界はボクらの手の中に』、キャスリン・ビグローの『デトロイト』……と既に評価が固まっている巨匠レベルの監督作が多く、A24のようなインディペンデント色はあまりありませんからね。
“アンナプルナがやらなくてもどこかがやったかもしれないけど、どこかがやってくれないと困る作品”という感じでしょうか。驚いたことに、設立者のミーガン・エリソンは現在32歳。25歳のときにソフトウェア会社の社長である父親からもらった20億ドル(!)で会社を立ち上げてここまで成長させました。
それ以前から映画に出資していたみたいですけど、譬(たと)えるなら“映画界のパリス・ヒルトン”って感じですよね(笑)。
〈アンナプルナ・ピクチャーズ〉の代表作品
『ザ・マスター』
2012年/監督:ポール・トーマス・アンダーソン/出演:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス
第二次世界大戦後のアメリカ。退役軍人のフレディは、〈ザ・コーズ〉という新興宗教団体を率いるランカスターに魅了され、共に行動するようになる。
『アメリカン・ハッスル』
2013年/監督:デヴィッド・O・ラッセル/出演:クリスチャン・ベール、ブラッドリー・クーパー、エイミー・アダムス
70年代に実際に起こった収賄スキャンダル「アブスキャム事件」に基づくフィクション。3人のインチキ詐欺師がFBIと手を組み、カジノ利権を貪(むさぼ)る政治家たちの汚職を暴く。
『デトロイト』
2017年/監督:キャスリン・ビグロー/出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アルジー・スミス
1967年、デトロイト暴動のさなかで起こった、警察による民間人虐殺事件(アルジェ・モーテル事件)が題材。『ゼロ・ダーク・サーティ』など社会派作品に定評があるビグローがメガホンを取った。
フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
小さな人生の物語を、コミカルに描かせたら、右に出る者なし
フォックス・サーチライト・ピクチャーズはいわゆるビッグ6(パラマウント、ワーナー・ブラザース、20世紀フォックス、ユニバーサル、ウォルト・ディズニー、コロンビア)以外で、僕が初めて制作会社を意識した会社。20世紀フォックスの子会社で、インディペンデント寄りの作品を制作・配給しようということで、1994年に設立されました。作品のメジャー度でいうと、A24よりポップだけど、アンナプルナよりはインディペンデント。
設立当初はコメディから重厚な人間ドラマまで、いろいろな作品を作っていましたが、2006年に『リトル・ミス・サンシャイン』、07年に『JUNO/ジュノ』、09年に『(500)日のサマー』と『ローラーガールズ・ダイアリー』を立て続けにヒットさせ、サーチライトといえば、「小さな人生の物語をコメディタッチで描いた作品」というイメージを決定づけたと個人的に思っています。
アレクサンダー・ペインの『サイドウェイ』をはじめ、中堅クラスの監督が巨匠レベルになる足がかりになるような作品も多いです。インディペンデントの制作会社がやるべきことをしっかりやっている、とても偉大な会社だと思います。
〈フォックス・サーチライト・ピクチャーズ〉の代表作品
『リトル・ミス・サンシャイン』
2006年/監督:ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス/出演:グレッグ・キニア、スティーヴ・カレル、トニ・コレット
主婦のシェリルが、娘を美少女コンテストに出場させるべく、自己啓発オタクの夫、自殺未遂経験のあるゲイの兄など問題含みの家族とワーゲンバスで繰り広げる珍道中。
『ローラーガールズ・ダイアリー』
2009年/監督:ドリュー・バリモア/出演:エレン・ペイジ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、クリステン・ウィグ
テキサスの田舎町で暮らす17歳のブリスは、友達と女子ローラーダービー観戦に行き、たちまち魅了される。晴れてチームに入団を認められた彼女は、すぐに才能を発揮し、大活躍するのだった。
『(500)日のサマー』
2009年/監督:マーク・ウェブ/出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ズーイー・デシャネル、クラーク・グレッグ
地味で冴えない青年トムは、会社に入ってきた天真爛漫なサマーに一目惚れ。ロマンティックなデートを重ねるが、サマーはトムに「真剣に付き合う気はない」と言い放つのだった……。
フィルムネイション・エンターテインメント
抜きんでている、個々のポテンシャル。ただし、結束力はない
もう一つアップカミングな制作会社として挙げたいのが、フィルムネイション・エンターテインメント。設立されたのは2008年です。映画の冒頭で、このロゴを目にしたことがある人も多いんじゃないでしょうか。
ジェフ・ニコルズの『ミッドナイト・スペシャル』、テレンス・マリックの『聖杯たちの騎士』といったインディペンデント色の強い作品から、ジョン・カーニーの『シング・ストリート 未来へのうた』やドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』、マーク・ウェブの『gifted/ギフテッド』みたいなエンターテインメント作品までいろいろ作っていますからね。
こうやって見てみると、話題作やヒット作もかなり手がけているわけですが、会社の名前自体が話題になることは少ない気がします。おそらくそれは、作品個体としての力は強いのに、全体として一貫性に欠ける部分があるからかもしれません。
結果として、会社としての色を押し出せていないという。それも一つの戦略でしょうけど。だから、印象としては、A24とアンナプルナを足して2で割ったような感じでしょうか。ですが、携わる作品は間違いなく良いので注目してみてください。
〈フィルムネイション・エンターテインメント〉の代表作品
『シング・ストリート 未来へのうた』
2016年/監督:ジョン・カーニー/出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボイントン、ジャック・レイナー
1985年、ダブリン。ポップソング好きのコナーは家庭の事情で公立学校へ転校することに。ある日、学校の前でラフィナに出会った彼は、彼女の気を引くため仲間とバンドを結成する。
『ミッドナイト・スペシャル』
2016年/監督:ジェフ・ニコルズ/出演:マイケル・シャノン、ジョエル・エドガートン、キルスティン・ダンスト
超能力を持つ少年アルトンをめぐって、彼の母親とその仲間たち、彼が神と交信していると信じるカルト教団、そして、FBIが衝突するSFサスペンス。監督は『MUD マッド』のジェフ・ニコルズ。
『gifted/ギフテッド』
2017年/監督:マーク・ウェブ/出演:クリス・エヴァンス、 マッケナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン
7歳のメアリーは驚くべき数学の才能を持っていた。天才的な数学者でありながら自殺した姉からメアリーを託されたフランクは、彼女を“普通の子供”として育てようと決意。しかし、思わぬ横槍が入る。
アニマル・キングダム
トガった新しい才能をどんどん発掘していく、インディペンデントの鑑
アニマル・キングダムも2012年設立です。まだ自主映画しか撮ったことがないような監督を発掘してきて、躊躇(ちゅうちょ)なく出資する気概があるのが特徴。したがって、手がける作品もかなりインディペンデント色が強いですが、にもかかわらず話題作にしてしまう打率の高さもあります。
実際、最初に手がけた『ショート・ターム』に出演したブリー・ラーソンは、これでハネた後、すぐに『ルーム』でアカデミー賞主演女優賞をとりました。
ほかにも、サウス・バイ・サウスウエストという映画祭で批評家賞を受賞しながら、本国でほとんど公開されなかった『アメリカン・スリープオーバー』のデヴィッド・ロバート・ミッチェルに2作目の長編『イット・フォローズ』を撮らせてカンヌ国際映画祭に出品したり、長編デビュー作『ギミー・ザ・ルート NYグラフィティ』で頭角を現しつつあったアダム・レオンに2作目『浮き草たち』を撮らせたり。
ただ、そうやって育てて注目された監督たちは、A24に取られちゃったりするんですけど(笑)。これから来る監督を青田買いしたい人は、まずアニマル・キングダム作品を観るといいんじゃないでしょうか。
〈アニマル・キングダム〉の代表作品
『ショート・ターム』
2013年/監督:デスティン・ダニエル・クレットン/出演:ブリー・ラーソン、ジョン・ギャラガー・Jr.、ケイトリン・ディーヴァー
問題を抱えるティーンエイジャーたちのためのグループホームを舞台に、自身も人には言えない過去があるケアマネージャーと子供たちの心の交流を描いたヒューマンドラマ。
『イット・フォローズ』
2014年/監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル/出演:マイカ・モンロー、キーア・ギルクリスト、ダニエル・ゾヴァット
ある男と一夜を共にしたジェイは、目覚めると椅子に縛られていた。そして、男は告げた。セックスによって呪いを移したこと、誰かに呪いを移さない限りは死が待っていることを。
『浮き草たち』
2016年/監督:アダム・レオン/出演:カラム・ターナー、グレース・ヴァン・パタン、マイク・バービグリア
将来有望なシェフのダニーは、兄にある仕事を頼まれる。それはリゾート地までブリーフケースを運び、別のブリーフケースと交換するという簡単なものだった。しかし、事は思うように進まず……。
ビーチサイド・フィルムズ
家で観るのにもうってつけ。良質で完成度の高い、コメディはここ
ビーチサイド・フィルムズは正確な情報がつかめなかったんですけど、やっぱり2010年代に設立した若い会社のようです。
僕もグッチーズ・フリースクールで上映しようとしたことのある『アメリカから来たモーリス』や、ノエル・ウェルスというコメディエンヌの女優さんが作った、どことなくレナ・ダナム(長編デビュー作『タイニー・ファニチャー』で注目を集め、HBOドラマ『GIRLS/ガールズ』のクリエイターに抜擢された監督にして女優)を思わせる作風の『ミスター・ルーズベルト』など、日本ではほとんど紹介されていませんが、アメリカ本国ではそれなりに評価を得た作品を手がけています。
『君の名前で僕を呼んで』に出演して時の人となったティモシー・シャラメが注目されるきっかけとなった『Miss Stevens』もビーチサイドですね。映画祭や賞レースにはあまり絡まないですが、良質で完成度の高いコメディを作っているという印象があります。
一般の観客でも共感できる身の丈に合った作品というか。日本ではネットフリックスでしか観られない作品ばかりですが、そうやって気軽に観るのに向いているということかもしれません。
〈ビーチサイド・フィルムズ〉の代表作品
『Miss Stevens』
2016年/監督:ジュリア・ハート/出演:リリー・レイブ、ティモシー・シャラメ、リリ・ラインハルト
心に傷を負った若い女教師が、問題を抱えた3人の生徒を連れて、演劇大会に出場するさまを綴る。ティモシー・シャラメが演じるビリーが『セールスマンの死』を独白するクライマックスが涙を誘う。
※日本タイトルは『マイ・ビューティフル・デイズ』
『アメリカから来たモーリス』
2016年/監督:チャド・ハーティガン/出演:マーキース・クリスマス、クレイグ・ロビンソン、リナ・ケラー
父親の仕事の都合でアメリカからドイツのハイデルベルクへ引っ越してきた黒人少年モーリスが、カルチャーギャップに悩みながらも、ラッパーとしての夢を追いかける姿を活写した青春映画。
『ミスター・ルーズベルト』
2017年/監督:ノエル・ウェルス/出演:ノエル・ウェルス、ニック・スーン、ブリット・ロウワー
売れないコメディアンのエミリーは、テキサスの元カレから愛猫が危篤との知らせを受ける。その最期を看取るために駆けつけた彼女だったが、ひょんなことから元カレとその彼女の住む家に滞在することに。
フィルム・サイエンス
気鋭の作家を支え続ける。制作会社の一つの形が、ここにはある
2005年に設立されたフィルム・サイエンスは、『ハンナだけど、生きていく!』をはじめ、2000年代にアメリカで起こった自主映画ムーブメントである“マンブルコア”作品(低予算で作られた、日常会話を“ぼそぼそしゃべる”若者を被写体にするのが特徴)や、新世代のバイオレンス映画の旗手ジェレミー・ソルニエの作品などを手がけていて、今回挙げた中では最もインディペンデント色が強いといえます。
特に注目すべきは、05年以降のケリー・ライヒャルトのすべての監督作品に携わっているところでしょう。ライヒャルトは、日本では本当にコアな映画好き以外には知られていないと思いますが、メインストリームでは描かれてこなかった視点で作品を撮っているとても重要な作家なんです。
ただ、おじさんたちが山に登って温泉に入るだけの『OLD JOY』をはじめかなり地味な作風なので、フィルム・サイエンスが手がけなかったら作られてなかったかもしれない作品も少なくありません。ライヒャルト自身の会社なのかと思いきや、そうではないようです。こうやって一人の作家を支え続けるという姿勢も、制作会社の一つの重要なあり方だと思います。
〈フィルム・サイエンス〉の代表作品
『ハンナだけど、生きていく!』
2007年/監督:ジョー・スワンバーグ/出演:グレタ・ガーウィグ、ケント・オズボーン、アンドリュー・バジャルスキー
大学を卒業したばかりのハンナが、3人の男を渡り歩く姿をコミカルに綴る。“マンブルコア”ムーブメントを率いた、監督ジョー・スワンバーグと主演グレタ・ガーウィグのコンビ作。
『グリーンルーム』
2015年/監督:ジェレミー・ソルニエ/出演:アントン・イェルチン、イモージェン・プーツ、パトリック・スチュワート
売れないパンクバンド、エイント・ライツの面々がツアーの末に辿り着いたライブハウスは、ネオナチの巣窟だった。彼らの殺人を目撃してしまったメンバーは攻防戦を繰り広げるハメに。
『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』
2016年/監督:ケリー・ライヒャルト/出演:ローラ・ダーン、クリステン・スチュワート、ミシェル・ウィリアムズ
それぞれに悩みを抱えた女性たちのすれ違いそうですれ違わない日々を3章立てで描く、地味だが心に響く作品。ライヒャルト映画の常連であるミシェル・ウィリアムズも出演している。