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映画『aftersun/アフターサン』のシャーロット・ウェルズ監督に、大島依提亜が聞きたかったこと

新星シャーロット・ウェルズの長編初監督作にして、世界のメディアでベストムービーに挙げられた、映画『aftersun/アフターサン』。11歳のソフィが父カラムと2人きりで過ごした夏休みを綴る、本作の映画宣伝素材を手がけたデザイナーの大島依提亜と監督のウェルズが、共有する本作への思いを語る。

photo: Kenya Abe / text: Tomoko Ogawa

構図が生み出す、エモーショナルな画作り

シャーロット・ウェルズ

10種類もバリエーションビジュアルを作ってくださって、ありがとうございます。主演の2人を捉えるだけでなく、映画全体を理解して表現してくださったなと思っています。

大島依提亜

ほぼ2人しか登場人物がいないのにこれだけ豊かな映画表現ができるんだと胸を鷲掴みにされまして、複数展開したいと僕から提案しました。

シャーロット

特に電話ボックスのシーンを使ってもらえたのが嬉しい。完璧な色味を出すのに苦労したシーンですし、上下に写真を並べるなんて私には思いつかないので。

大島

そうデザインした理由は、僕がこの映画から、スプリットスクリーン的なアプローチを感じたからです。

例えば、実際の人物と鏡の中の人物とか、バスルームにいる人と壁を介してベッドルームにいる人とか、あたかも2画面のように見せている。でも同時に1つの画として成立しているところが見事ですよね。

シャーロット

脚本の段階から決めていたことなのですが、バスルームとベッドルームを両方撮れる場所を探して探して、やっと見つけた場所があのホテルだったんです。

大島

なるほど!

シャーロット

バスルームも青いタイルを敷いたり、イメージ通りの画が撮れるようにしました。2人が同じ空間にいるけれど、個々として存在することを表現したくて。

大島

冒頭のシーンがまた中盤に出てきたり、モニター越しやテレビ画面に反射して映る2人など、画面の中にまた画面というような幾重にも重なる入れ子構造が1つのスクリーンに収まっているのも印象的でした。

シャーロット

数え切れないほどの視点があったので、カメラ、テレビを置く位置や足の動きまで計算して撮影しました。理由は、かっこよく見せたかったから(笑)。

ストーリーを動かすためにも、そういう手法を取らなければと思って。個人的にすごく気に入っているのは、ソフィが小型ビデオカメラをテレビの前に置くという、記録から記憶につながるシーン。

ソフィ自身が撮っている記録映像の後にも、物語は続いていく。それは、大人のソフィが記憶から想像している部分なんです。

左/シャーロット・ウェルズ監督。右/大島依提亜。

ミニマルな見せ方で多くを伝えるという技

大島

画面上ではっきりと映さないところでこそ、重要なことを会話していたり、感情の吐露があったりするのが素敵で。エモーショナルな場面は劇的に撮られがちですが、むしろ引くことで重要なことを語っている。特徴的なスタイルですよね。

シャーロット

そういう、日常の細かい描写から、意味や感情を読み取れるような映画に惹かれるんですよね。「もっとドラマティックにした方がいいんじゃない?」と言われたりもしたんですけど(笑)。

大島

でも、最後に最大のエモーションを残されてますし。冒頭からお父さんが脆い存在であることは伝わりますが、ソフィがどこかでそれを感じているのが切なくて。

シャーロット

最初、ソフィは父の内面に関して何も知らないという設定だったんです。でも、ふとした瞬間、何かおかしいと感じさせる表情をする。ソフィ役のフランキーの演技を見たとき、自分のスタンスを変えなくてはいけないと思いました。大人の彼女の回想なのだとわかると、表情に重みが増してくるので。

大島

私的な作風だし、多くを語らないにもかかわらず、あまり疑問を抱くことなく観た人が共感できる感じがして。家族という普遍的な問題を描きながら、旅の高揚感と寂しさが同居した感情を喚起させるところもある。合わせ技ですよね。

シャーロット

そういうものを捉えたかったんです。私の思い出でもある、旅先の暑さや匂い。真夜中に空港からホテルに移動中に寝てしまって、起きたら今どこにいるかわからない感覚とか、ホテルで迷ったときの不安とか。

大島

それをすごく思い出しました、初めて観る映画なのにね(笑)。

5月26日(金)公開『aftersun/アフターサン』予告編