「男女のデュエットソングは、昭和歌謡を原点とする“かけあい系”と、R&Bやダンスミュージックブームを背景にした“世界系”、2つの系譜を軸に展開します」と分析する作家の鈴木涼美さん。
「1980年代までは、男女のデュエットといえば登場人物は恋愛関係にあるのが自明。浮気を責める女と開き直る男の『3年目の浮気』など、すねたり駆け引きしたり、それぞれの言い分が歌詞になっていた。役割を持つ2人のかけあいで物語が紡がれたのです」
それが形を変えるのは90年代。2人の役割が曖昧な「世界系」が、ヒットチャートを席捲し始める。
「テーマは恋愛でも、2人で一つの世界を歌うことで情景が広がる感覚です。重視されるのは言葉の意味より“ハモり”と“耳馴染みのいい歌詞”。この系譜は、完璧なハモりで聴かせる2007年の『WINDING ROAD』でいったんの完成を見た、と私は思います」
以降「世界系」は、時代の流行に寄り添う企画ものが主流となる。
「一方の“かけあい系”は、歌謡ショー的デュエットなど、形を変えながらも細々と受け継がれます。ヒップホップブームにのって現れたのは、1994年の『DA.YO.NE』。昭和的なかけあいを、ラップによってJポップへ変換したといえるでしょう。
そもそもヒップホップの根底に流れているのは、昭和歌謡にも似た“俺/おまえ”的世界観。相性はよかったのかもしれません」かように進化を続けた「かけあい系」の最新形が「キスだけで」。
「昭和デュエットの型を利用しながらも、役割を男女逆転させている。加えて、まず男性が“女だから”と歌って構図を説明してるのがさすが。今後の“かけあい系”には同性の恋愛も出てくるはず。多様な展開が期待できますね」