再生のための茶とサウナと“民族的モダン”がテーマ。京都の〈モクサ〉に泊まってみた

京都市の北、比叡山に程近い山の麓に、心身を癒やし、生まれ変わりを体験する宿〈モクサ〉がオープンした。高野川沿いの深緑のなかにぽつんとできたホテルがテーマとする“再生”とは、いかに叶えられるのか。

photo: Norio Kidera,Katsumi Omori / text: Asuka Ochi

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テーマは「再生」。旅の目的が宿泊になるホテル

2022年3月30日、京都・八清にオープンした〈moksa〉。市内を少し離れ、歩いていける近隣に主だった観光地や店がない、自然豊かな場所ならではのホテルのブランドコンセプトは、人間が本来生まれ持った感覚にまで立ち返る“再生”。忙しい日常に縮こまった心身を、過ごしながら開放するためにここ泊まるのだ。

最も特徴的なのは、館内の至るところを飾る、現代作家の作品たち。場所性や土地の文化、歴史から紐解いた“民族的”であり“モダン”な作品が、館内のあちこちを彩る。これらは、京都のギャラリー〈tonoto〉とつくった空間。土着の自然素材を用いた作品が面白い。

館内を彩るアート作品が20点以上

陶芸家・彫刻家の沓澤佐知子さんによる、ホテルの守護神の土偶「moksa jin」はシンボリックな存在。エントランスでは、廣谷ゆかりさんの蔓の立体と、清水志郎さんの土の作品に迎えられる。全部で20名ほどにもなるだろう現代作家が関わった作品を、一同に見られるだけでもなかなかの体験である。

ロビーには、これらの作品とともに苔庭を眺める4席のお茶カウンター〈帰去来〉があり、薬膳茶や台湾茶、日本茶などが楽しめる。お茶もまた、アートとともに、プリミティブへと身体を引き戻してくれるツールだ。ここでは不定期で、茶人の堀口一子さんや、芸術家で茶人の市川孝さんによる茶会なども行われる。

〈しきじ〉プロデュースのプライベートサウナ

病院の療養所だった建物を改装したホテルは、部屋もゆったり優雅。リバースイートのバスルームから高野川を眺めながら、ゆっくりと風呂に浸かろう。

〈moksa〉のある地に残る、矢傷を癒やしたとされる日本最古の蒸湯文化は、現代的なサウナとして昇華されている。サウナの聖地〈サウナしきじ〉の娘、笹野美紀恵プロデュースによる3種のユニークなプライベートサウナでととのえば、デトックスも完璧だ。

夜は、館内のレストラン〈MALA〉へ。大原の農家や京都近郊から仕入れる旬の食材は、日持ちが難しいものもあり、産地で味わうことこそが旅の醍醐味。料理に使われる薪の火を、カウンター間近に眺めていただけば心も整う。薪火で焼かれた肉や野菜は甘く香ばしくて、土地のエネルギーが染み入った。

周囲を取り巻く自然のなかで、アートと茶とサウナを存分に楽しみ、自分と向き合う時間に、本来の私を取り戻す。京都へ行くと忙しい旅をしがちであるが、たまにはこんなふうに、心と体を充足するための旅も、いいかもしれない。

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