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「大切な人には大切に思っていることを示していきたい」。〈羊文学〉塩塚モエカが愛を歌うときは

国内外の多くのライブに出演するオルタナティブロックバンド〈羊文学〉。楽曲がアニメの主題歌になったり、賞を受賞したり、バンドは着実に歩みを進めている。ギター・ボーカルの塩塚モエカに聞く、ラブソングと愛。

本記事は、BRUTUS「特集 ラブソング」(2025年10月15日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Daiki Miura / text: Takuro Shii

「大切な人には大切に思っていることを示していきたい」

ラブソングについてのインタビューと聞いて、正直迷いました……。ちゃんと答えられるだろうかと。というのも、ラブソングを書こうと思って作ったのは「恋なんて」という曲くらいで。少し前の曲なんですけど、若かったのもあってちょっと不健康な恋愛について書いてるなと思ってます。

あとは、ニューアルバムの「cure」って曲も恋愛の曲だけど、これは2人が離れ離れになった後の曲。どういうふうに2人が立ち直って生きていくか、そういうことに興味があって。恋が一番盛り上がっているときよりそういうことを書く方が好きですね。でも、わからない、数年後にはめっちゃ幸せな歌とか書いてるかも……。

Charaさんの「kiss」という曲は大好きでよく聴きます。歌詞だけでなく、音の一つ一つから恋愛の切なさや、孤独、温かさが溢れている感じがします。今日は眠れないかもしれないという夜に聴くと、不思議と落ち着いて眠れるんです。

今はラブっていうと恋愛より、家族愛とか心の深いつながりのことを考えます。ニューアルバムの「愛について」という曲は、恋愛に限らず、人と人とが一緒にいて、しかもそれで幸せを感じられることは奇跡的なことだなって思って書きました。人それぞれ生きてきた人生は違うから、踏み込むのは恐る恐るになるけど、それでも奇跡的に出会えた大切な人には大切に思っていることを示していきたい、そんな曲です。

そんな2人のこと、奇跡と呼んでいいと思う

羊文学「愛について」
10月8日発売の5枚目のアルバム『Don't Laugh It Off』に収録。アルバム名の意味は「笑って誤魔化さないで」。

あとは、自分の歌詞を見返してて、人に対する愛っていうのもあるけど、自分に向けて書いているのも多いなと。なんかよく暗黒の20代後半とか言うじゃないですか。やっぱりすごい大変だなって、振り返ってみて思うんです。そんな大変な日々だから生きることへの愛というか、自分を鼓舞する歌も多いですね。

今日もどこかで、その人だけのせいじゃないのに苦しんでいる人がいる。駅のホームで辛そうに座り込んでいる人がいる。そういう、うまくいかなくてどうしようもなくなってしまった人たちの存在を忘れないでいたいし、自分もその一人だと思っています。音楽がすべての人の救いになるとは思わないけど、精いっぱい生きるという行為を肯定していたい。私が歌うラブソングは、きっとそういうことなんだろうなと思います。ほかのみんなはわからないけど。

あ、今気づいたんですけど今日の私のキャップ、大きく「BIG LOVE」って書いてあった(笑)。

塩塚モエカ
No.1041「特集 ラブソング」ポップアップバナー