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日常へ侵食する、怪異と恐怖。玉置周啓とTaiTanが語るモキュメンタリー

今ネットを中心に盛り上がるのが、フィクションをドキュメンタリーのように見せるモキュメンタリー。受け手に解釈の余白を与え、“語りたくさせる”作品の魅力と怖さを、Podcast番組『奇奇怪怪』の2人と考えた。

photo: Kiyoaki Sasahara, Masanori Kaneshita / text & edit: Emi Fukushima

玉置周啓

モキュメンタリーって、今ホラーの中でかなり盛り上がってるサブジャンルだけど、TaiTanは前に制作にも携わっていたよね。

TaiTan

そうだね。2021年に、テレビ東京の『蓋』という番組をディレクターの上出遼平さんと作ったことがある。Dos MonosのMVを上出さんにお願いしたのが始まりだったんだけど、普通に作っても面白くないから地上波のテレビ番組にしようと。

それで、“見えているのにないことにされているもの”をテーマに、未明の停波帯の10分間に、渋谷の下水道の監視カメラの映像や誰かのPC画面など虚実皮膜を狙った不気味な映像を流すことを試みた。

ドキュメンタリー番組『蓋』
『蓋』
企画:上出遼平/テレビ東京/2021年9月7日~13日/全5回にわたって不定期で放送されたモキュメンタリー番組。暗渠化(あんきょか)された渋谷の地下には、新人種が誕生していたという設定で展開。〈Dos Monos〉とのコラボレーションで制作され、楽曲「medieval」のMVは本番組に登場した地下水路で撮影された。©テレビ東京

周啓

深夜すぎてリアルタイムでは観られなかったけど、ツイッターで話題になっているのはよく見かけた。前情報なしにテレビをつけてたら、めちゃくちゃ怖かっただろうな。

TaiTan

テレビって、受け手が自ら情報を取るネットと違って視聴者に主導権がないメディアだから、不意打ちが機能するんだよね。さらに人って“穢(けが)れ”のようなものに出くわすと、少しでも分散させようと思うからか、「やばいの見た!」「とにかく見て」みたいな粘度のある反応が多くなる。それってだらだら説明されるよりも吸引力があって、伝染するように次回を期待してくれる人が多くなったのは、実感した。

周啓

シェアしたくなるんだろうね。

TaiTan

例えば俺も、雨穴さんの『変なAI』は、何人かにシェアした記憶がある。YouTubeとウェブ小説の両方があるルポ形式の作品で、僕は小説の方を読んだんだけど。

『【科学ホラーミステリー】変なAI』
制作:雨穴/2023年/書籍『変な絵』や『変な家』が話題の雨穴が、23年5月に自身のYouTubeチャンネルに投稿した新作動画。「AI Kakashi」という名の画像生成AIで「怖い」「恐ろしい」「悲しい」などのネガティブな言葉を入力すると、同じ野っ原の空き地の写真が生成される。その背後にある恐ろしい事実を明らかにしていくルポモキュメンタリー。ウェブサイト「オモコロ」では、テキスト版も公開している。

周啓

ああ、あれ面白かったね!

TaiTan

マイナーな画像生成AIに「怖い画像」と入力して検索すると、なぜか何の変哲もない野原の写真が出てくる。その不可解さを探っていくっていうモキュメンタリーなんだけど、終盤に畳みかけるように二転三転あって、最後の一言に大オチがある。創作物としての完成度が高くて、優れた短編小説を読んだような読後感になったんだよね。

周啓

それでいうと、独立したフェイクドキュメンタリー映像十数作品からなる、YouTube『フェイクドキュメンタリー「Q」』も創作物として完成度が高かったな。それぞれの映像は一見関連性がないんだけど、この回とこの回がつながっているかもしれないと観賞者が勝手に想像できる余白がある。

断片的に観賞できるうえにシリーズとしての見応えもあって、今の生活に寄り添うメディアの使い方をしているんだよね。

『フェイクドキュメンタリー「Q」』
制作:皆口大地、寺内康太郎、福井鶴、遠藤香代子/2021年/人気YouTube番組『ゾゾゾ』の皆口大地と、数多くのホラードラマシリーズを手がける寺内康太郎のタッグによるフェイクドキュメンタリーシリーズ。シーズン1は、「見たら死ぬビデオ」にまつわる取材動画や、東北地方に伝わる儀式を映したビデオ、お蔵入りになったテレビ番組の取材ビデオなど、内容の異なる全12作の映像からなる。シーズン2も更新中。

TaiTan

なるほどね。

周啓

モキュメンタリーって、あらかじめ作り物であると提示されているからこそ、観賞者に「どうせ嘘だろ」と腐(くさ)す隙を与えず、純粋なエンタメとして永遠に掘っていける。一方で、あまりのリアリティによって作り話という前提が揺らぐと、一気に恐怖を感じるのかなと。

TaiTan

まあでもその背景には作り手の繊細な世界観の設計があるよね。ウェブ小説『近畿地方のある場所について』を書いた背筋さんも、作品が単行本化されるにあたっての報告ツイートに、冒頭に“作品から感じる恐怖感を損なう可能性がある”との注意書きをしていて。モキュメンタリーを扱うのって、こんなに繊細なんだと実感して面白かった。

Web小説『近畿地方のある場所について』
『近畿地方のある場所について』
著者:背筋/KADOKAWA/2023年/小説投稿サイト「カクヨム」に投稿された。近畿地方の特定のエリアに関する怪談を集めていた編集者が失踪。友人である作者がその謎を突き止めようと読者に情報提供を求める。記事の切り抜きやインタビューの書き起こしにより次第に怪異の全貌が見えてくる。23年8月30日に単行本が発売。

周啓

『Q』を撮った皆口大地さんもインタビューで、動画の中には本当の心霊現象も混ざっているんじゃないかと多くの視聴者に質問されるが、その話は一生明かさない、と答えてた。そうなると観賞者は考察以上のことができず自分で発見した怪異の答え合わせができないまま。永遠に宙ぶらりんになって、次第に自分の日常と接続する怖さになっていく。それが醍醐味なんじゃないかな。

シークバー上の怪異は偶然?意図的?

周啓

『Q』でいうと、YouTubeのシークバーに沿って表示されるリプレイ回数の山が怖かった。

TaiTan

ん?どういうこと?

周啓

リプレイ回数の山が高くなっている箇所が、わかりやすく怖いシーンじゃなくて、特に何も起こってないシーンだったりするんだよね。コメント欄で誰かが言及している場面でもない。意図的かはわからないけど、そのリアルな違和感にゾワッとした。触れている考察班がいないかコメント欄を漁(あさ)ったんだけど、見つからなかったね(笑)。

TaiTan

へ~、そういう怖がり方もあるんだ。YouTube関連でいくと、Netflix映画『呪詛』は、呪いを受ける主人公たちがYouTuberであるという設定が効いてたな。ホラー映画では定番ジャンルになったPOVものって、カメラを構える理由が不自然だと途端にノレなくなるんだけど、観賞者に向かって語りかけてくるフォーマットもYouTuberなら自然だし、さらにそれが呪いを伝播させる行為にもなっているというのは、アイデアとして秀逸。だからこそ、怖いっていう感覚に襲われた。

周啓

たしかに、構造そのものが極めてモキュメンタリー的だよね。

『呪詛』
監督:ケヴィン・コー/台湾/2022年/Netflixで独占配信中。主人公はシングルマザーのルオナン。かつて「超常現象調査隊」というYouTuberとして仲間と怪奇スポットを巡っていた彼女は、妊娠中にある村の宗教的禁忌を破り、呪いを受けてしまう。精神を病みしばらくの休養を経て回復した彼女は、施設に預けていた娘を引き取り新たな生活をスタートさせるが、周囲で不可解な現象が起こるように。

まるで連歌のように育まれる考察ツリー

TaiTan

今話題になっているモキュメンタリーには考察がつきものだけど、その構造が面白いなと思って。

周啓

どういう構造?

TaiTan

一人一人がバラバラに考察するんじゃなくて、Aさんがある情報に注目してコメントをすると、それを継ぐ形でBさんが考察を付け加え、対してCさんが別の視点からの見方を提示する。ツリー構造でみんなでリズムを作っていく文化が、和歌を複数人で作る連歌にも似てる。もはや考察コメントのツリーを眺めるところまでがコンテンツだなって。

『やがみ【2chスレ解説】』
制作:やがみ/2021年~/2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のスレッド内で起こった怖い出来事や不気味なやりとりをテーマにした怖い話を動画で配信。元のスレッドはなく、ビジュアルイメージは本物の2ちゃんねる内を模して自ら作成している。100万再生超えの人気動画も多数。チャンネル登録者数は70万人以上。

周啓

なるほどね。そう考えると、ホラーの中でも特にモキュメンタリーって、作り手と観賞者が共犯関係になって初めて成り立つものだよね。

TaiTan

両者の応酬の末に、今後どんな新しい作品が生まれるのか楽しみだし、自分も機会があればまた作り手側として関わってみたいなとは思う。今度はテレビじゃなくて、YouTubeでもなくて……、例えばデジタルサイネージでやるとか?

周啓

めちゃくちゃ面白そうだし、怖すぎる。やりすぎがよ。

今、モキュメンタリーを語りたくなる理由

● テレビ、YouTube、Web小説など媒体が多岐にわたる。
● 虚実が曖昧な怪異が、日常へと侵食してくる。
● そもそものフィクションとしての完成度が高い。
● 作り手の人格も含めて世界観が繊細に構築されている。
● 受け手たちによる活発な考察も、読み応え抜群。

〈Dos Monos〉ラッパー・TaiTan、〈MONO NO AWARE〉ボーカル・玉置周啓
玉置周啓 (左)、TaiTan (右)。

新作モキュメンタリーも要チェック

『DASHCAM ダッシュカム』

監督:ロブ・サヴェッジ/製作:ジェイソン・ブラムほか/米=英/2021年/女性ラッパーで迷惑系ライブ配信者のアニーは、昔の音楽仲間・ストレッチを訪ねる。しかし迷惑がられ、頭にきたアニーは、ライブ配信をしながら彼のフードデリバリーの仕事を勝手に引き受ける。

『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』

監督:白石晃士/日/2023年/11年前にスタートした『コワすぎ!』シリーズの最新作。怪奇系ドキュメンタリーを作ってきたプロデューサーの工藤の零細映像制作会社は倒産の危機に。そんな中、工藤の元に一本の投稿動画が寄せられる──。

『6』

小説『6』著/梨
著:梨/2023年/玄光社/インターネット上に伝わる怪談をテーマにした前作『かわいそ笑』に続いて2作目のモキュメンタリー小説。とあるデパートの「屋上遊園地」、峠道に存在した石塔、23分45秒の動画記録……などの6つの物語の恐怖が、読者の日常へとじわじわ染み出てくる。