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健康的なSNSライフを送るには?三宅香帆が提案するオンラインで健やかにつながる伝え方

多くの人が悩みを抱えるインターネット上でのコミュニケーション。信頼できる人と思いを分かち合い、健康的なSNSライフを送るには?識者が考える、前向きな発信方法。

初出:BRUTUS No.1024「伝える力。」(2024年2月3日発売)

text&edit: Yoko Hasada

心地よく、気持ちを共有する

自分の“好き”を大勢と共有したい。そんな思いに応えるべく日々研究を重ね、自身の著書でもSNSでのポジティブな発信方法について綴る、三宅香帆。SNSで自分自身の言葉を紡ぎ、他者へと前向きな気持ちを伝えるコツを聞いた。

三宅香帆が提案する、SNSで“好き”を発信するための3ヵ条

・“自分の言葉”を守る。
・考えは極力具体的に書く。
・自分に合った“界隈”を探して仲間を作る。

──SNSの登場で、伝え方は変化した?

SNSの登場以前と以後で、大きく変わったのは、自分で自分のことを“自己検閲”しながら伝えるようになったことだと思います。SNSの発展前は、自己紹介する機会は新学期や就職・転職時くらいに限られていたはず。ですが、今のSNSは、常に自己紹介への反応が見て取れる場所。

「こう発言したら、みんなにどう思われるか」と自意識のありかが変わり、常に他人の存在を意識しながら自己プロデュース的な目線を持つという、「伝え方」の新たな視点が加わりました。他者の様子がわからない中で自己検閲するのはかなり高度なテクニック。それがSNS世代にとっては比較的自然な感覚として身についているように見えます。

──発信するときに意識したいのは?

言葉を受け取る側の人の気持ちを考えて、言葉遣い一つとっても、自分の投稿で嫌な気持ちになる人がいないか、そういう疑いを、投稿前に最低限のマナーとして持つとよいと思います。

それを踏まえて、私が個人的に意識していることは、“自分の言葉”を守ること。昔から言葉は伝染しやすいもので、気づけば家族や仲間内で同じ言葉遣いになっていることもあると思います。

SNSは、自然といろんな人の言葉が脳内へと入り込んでくる場所でもあるので、自分と他人の言葉の境目がわかりづらくなる。無意識のうちに他人の発言を引用したり、共感した誰かの意見を自分のものと思い込んだり、自らの言葉の存在感が危ぶまれてしまいます。

だからこそ、常に自分の感覚で言葉を紡ぐよう意識して、他人の意見や感想に頼らないことが大事だと思います。そのためには、感動したらその都度忘れないようにメモをとったり、他人のSNSを見る前に感想を投稿してみたり。誰かに気持ちを伝えるという意識を持って、日々感覚を言語化する習慣をつけるといいと思います。

──ポジティブに思いを伝えるには?

インターネットでのコミュニケーションは、相手の顔が見えず、時には誤解されてしまうことも。広く、自分の言葉で思いや情報を伝えるためには、いくつかコツがあると思っています。

まず、伝えたい相手をイメージすること。より多くの人に伝わったらうれしいものですが、例えば好きなアイドルのコンサートに行って「この感動を伝えたい!」と思ったときは、同じファンに対して書くのか、ファンではない人たちに広めたいのか、相手によって書きぶりが変わると思います。

次に、一番伝えたいことが何かを明確にする。ポイントを一つに絞っておくと、わかりやすい文章になります。そして最後に、伝えたいことを具体的に書く。どの場面のどんなところが良いと思ったのか、具体的に書くとより伝わりやすくなります。

私の場合は、著書について発信するとき、ただ書籍の紹介サイトへのリンクを貼るのではなく、具体的な本のおすすめ箇所を知ってもらうために、試し読みできるよう文章をスクショした画像を貼っています。具体化の際に工夫を凝らすと、正しく自分の気持ちを広めることができます。

──気をつけるべきポイントは?

「SNSで発信するときは言葉の使い方や投稿内容に気をつけましょう」と言われがちですが、それよりも「何を拡散するか」をもっと意識するべきだと思います。考えてみれば、他人の意見を自分の意見として伝えることができるというのは、特殊な状況。

特にXは、他人の投稿を気軽にリポスト(RP)してしまいがちですが、何百万回と重なれば、それが誰かにとって誹謗中傷につながることもある。「RPも自身の意見発信の一環だ」と自覚して、内容を吟味できるとよいですね。

「本当にこの意見が影響力を持ってもいいのかな」「不適切じゃないかな」と、少し立ち止まって考える。それで伝え方は大きく変わると思います。

あとは、周囲の空気に流されないこと。「ほかの人も言ってるから」と自らの意思なく乗っかってしまうと、モラルを破りやすい。「何を、どう伝えたいのか」を常に考えることが大切です。

──今の「伝え方」を象徴するワードは?

コミュニケーション的な視点で言うと、“界隈”という言葉は、最近のSNSにおける注目ワードだと思います。元来は「付近、そのあたり一体」という意味ですが、SNSでは特定の趣味やコミュニティ、好きなものの属性を指す言葉として多用されます。「風呂キャンセル界隈」「自然界隈」といった用語はよく使われました。

また最近は「心地よくSNSと向き合うこと」に関心を持つ人が増えているように思えます。その場合、自分と好みや趣味が似た人たちと交流できるコミュニティがあると楽。自分が好きな“界隈”であれば、興味が似ているのでコミュニケーションが取りやすい。また、最近は“界隈”ごとのつながりが濃くなり、その中で流行語が生まれることも。

例えば、アイドル好きの間で使われる「メロい」という言葉。メロメロにさせる魅力がある、という意味ですが、ほかの言葉で表し難い独特の感覚を仲間内に共有する言葉として広まっています。

──「伝える」を楽しむコツは?

私自身、SNSやインターネットが大好き。今もなお楽しんで日頃から活用しています。そのために、不安や違和感を覚えたらミュートで自衛するなど、相手との不和をできるだけ避けます。多くの人が発信し情報の波に呑まれる中、自分の言葉も環境も整える意識が大切。

そのうえで、SNSで何を発信したいのか明確だと、伝えることが楽しくなります。例えば推しについて語りたいなら、趣味専門のアカウントを作って、自分の“界隈”を見つけるのも手段の一つ。思いを共有・交換したい相手も明確になるので、伝え方もイメージしやすくなると思います。

また、XやInstagram、TikTok等のSNSはそれぞれトーンに合った伝え方があるので、各特色を把握しておくと、より楽しく発信できると思います。最近はYouTubeでもコミュニケーションが生まれていて、将来SNS的に使われるようになる可能性も高い。

アルゴリズムの影響でSNSの仕組みが変化することもありますが、伝えることを楽しむうえで大事なポイントは、大きく変わらないと思います。

SNS別・広く伝わる投稿事例

X

話題の投稿のフォーマットに倣う

Xではバズったポストと同様のフォーマットに倣うと同志に広まりやすい傾向。ゲーム媒体「もぐらゲームス」では最新作を考察視点で紹介する。「最近の考察文化では箇条書き&場面写真を4枚並べた構成が人気。馴染みの形式だと同じ関心を持つ人の目に留まりやすくなります」(三宅さん)

Xの投稿画面

TikTok

みんなが夢中のトレンドに乗る

ショート動画中心のTikTokでは、ほかのSNSよりも大きな流行が生まれ、人気楽曲を使った投稿は多くの共感を得やすい。2024年にバイラルヒットした〈KOMOREBI〉の「Giri Giri」は、楽曲の歌詞に合わせた“ギリハピダンス”が話題に。「音楽以外にも、ハッシュタグやダンスなどトレンド要素を組み合わせると効果的です」

TikTokの投稿画面

Instagram

フィード投稿を意識的に増やす

Instagramは24時間で投稿が消えるストーリーだけでなく、フィードへの投稿も継続的にすると効果的。あのジャスティン・ビーバーも、頻繁に日常的なポストを続けている。「おすすめ順に表示されるアルゴリズムなので、投稿数が多いほど他ユーザーにサジェストされる確率が上がると感じます」

Instagramの投稿画面

YouTube

サムネイル作りに工夫を凝らす

YouTubeの主軸は企画動画。共感者にクリックしてもらうためには、動画のサムネイルで興味を惹くことが重要。三宅さんも自身のYouTubeで、マニアックな本の話題をポップに見せる画(え)作りを意識する。「関心を持ってもらうためにどのシーンを切り抜くかも、よく考えます」

YouTubeのサムネイル