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みうらじゅんといとうせいこう、男同士の友情。仏像がつなぐフレンドシップ

20年にもわたって、男2人、仏像を巡る旅を続けてきたみうらじゅんさんといとうせいこうさん。誕生日もクリスマスも寺を巡り、互いの親とも見仏ツアーを行った。その先に辿り着いた男同士の友情の境地とは?

Photo: Junmaru Sayama / Text: Hitoshi Matsuo

恋人であり、親戚であり、戦友
仏が導いた男同士の友情の境地

みうらじゅん

この間、いとうさんとテレビに出演した時、「初老のお2人にお聞きしたいんですけど」って質問あったよね(笑)。さすがに20年以上も付き合っていると、ヤングな2人には見えないはずだよ。

いとうせいこう

お互いが30歳ぐらいの頃に知り合ってるからね。確かスペースシャワーTVの番組にみうらさんが出てくれたのが出会いだったはず。

みうら

「ローリング・ライター・レビュー」という、野外で文章を書くツアーをしていた頃だよね。

えのきどいちろう、安齋肇、カーツ佐藤との4人組でお邪魔した時ね、いとうさんから「俺、キーボード的な役柄だったらメンバーに入ってもいいよ」みたいな常套句が飛び出したんだよ。それを鵜呑みにしたのが友達付き合いのきっかけだったと思うよ。

いとう

それまでもお互いの存在は知ってはいたけど、派閥が違ったから接点がなかったんだよね。俺はヒップホップやクラブ系で、みうらさんはエロとか怪獣。でも、たまたま番組で一緒になったらウマが合った。

みうら

テンポは似てたんだろうね。すぐに気が合って、メガネの度も合ってたからなぁ(笑)。

いとう

で、後日、なぜかみうらさんの事務所に行くことになった。そこで待っていたのが、みうらじゅん特有の接待!

面白いゲームや録画ビデオを次々に見せられて、その流れでみうらさんが小学生の頃に作っていた「仏像スクラップブック」が出てきたんだよ。「これ、弥勒じゃない?」と言ったら、「わかるの⁉」と表情が一変した。

みうら

仏像の話がまともにできたのは母方の祖父以来だったからめっちゃ嬉しかったんだよね。仏欲が溜まってたから(笑)。

スクラップブックには小学生の頃に詠んだ俳句もあって、「法隆寺 建物・仏も 日本一」という句に、「それ、標語じゃねーか」とツッコまれて、それが後に武道館まで満員にしたスライドショーの始まりだったね、今、思えばさ。

観音菩薩と釈迦如来の仏像レプリカ
みうらさんの観音菩薩、いとうさんの釈迦如来。韓国見仏に訪れた際に、2人が記念にみやげ物屋で購入した仏像レプリカ。あえて安っぽいプラスチック製を選ぶのが2人のセンス。観音菩薩像(左)はみうらさん、釈迦如来像はいとうさんの念持仏。

いとう

あの日はお互い夢中になってしゃべったね。昼間に来たのに、いつの間にか夜になっていた。

みうら

電気もつけず夢中で……気がついたら暗くなってた。完全に恋電気もつけず夢中で……気がついたら暗くなってた。完全に恋人同士のパターンでしょ(笑)。

いとう

2人とも電話番号を交換して喜んで帰ったはず(笑)。

みうら

翌日、さっそく仏像をただ見て巡る連載『見仏記』の企画を出版社に売り込んだよ。いとうさんには一切相談もしないで、「僕がイラストを描いて、いとうさんが原稿を書きますから」って(笑)。

学生時代は毎日友達と会えるからすぐ親しくなれるけど、大人になると友達との時間がなかなか作れない。だから仏像を見に行く旅という名目で一気にいとうさんと親友になろうとしたんだよ(笑)。

いとう

突然電話が来て「連載が決まったから、何月何日は空いてるか」みたいな話だった。

旅をすると仲良くなるけど、僕らの場合、良かったのは仏像を見るという目的があったこと。横に並んで同じものを見るから衝突しなくていいし、会話が生まれるんだよね。

仏像のおかげで良い三角関係が出来上がった。この関係が結構大事だと思うんだよね。恋人同士が向き合うと喧嘩になるけど、夕日を見ていたら喧嘩は起きない、みたいな。「夕日っていいね」って、ぽつり言ったりしてさ。

みうら

男同士だって、ときめくからねぇ。でも、最初に奈良の仏像を見に行った時はまだね、2人とも探り合ってたから。

お寺って16時30分ぐらいには閉まるから、その後ホテルで酒でも飲めばもっと深い仲になれると俺は思っていたんだけど、いとうさんのリュックにはスーファミが入っていて、ご飯を食べたらシュッと部屋に籠っちゃったんだよ。

いとう

ドラクエⅤが出た頃で「すみません、冒険があるので」って(笑)。

それがいたく気に入らなかったみたいだよね。フラれた恋人のように「そんなのやることないじゃん」って言われた。結局、ホテルのテレビが古くてプラグがつなげなくて、俺が部屋から出てきたんだけど。

みうら

天岩戸が開いた瞬間(笑)。

いとう

それでまた部屋で長いこと話したんだよ。仲良くなれたのは、この時に築いた信頼関係が大きい。知識やセンスが共通で何を言ってもだいたい通じることがわかったから。

意外にも文学青年でアウトプットの方法が違うところも好きだと思った。俺がバリバリの文学論を書くなら、みうらさんは遠回しにそれを笑ってみせる。でも、同じものを読んでいる。

そこがラクだし、自分にはない部分だから反省もする。あと、2人で企画を考えるのも面白い。みうらさんには編集者の視点があるから、ボールを投げ合っていると、さらに上まで行けるんだよね。

みうら

スライドショーのオープニングにゆるキャラを出したくて、その着ぐるみの中にメガネを掛けた人に入ってほしいよねって話になって。

旅館の風呂場で夢中でしゃべって、結局春風亭昇太がいいということになったんだけど、スケジュールが合わなくて、「じゃ、絶対大江千里さん!」って決定したんだよ(笑)。

いとう

結局、大江さんはステージ上で着ぐるみをとらなかったよね。背後のスライドに、でっかい文字で「大江千里→」と出ただけ(笑)。

みうら

あれは贅沢なことしたねぇ。そしてスライドショーは、打ち上げがまた気持ち悪いんだよ(笑)。

いとう

スタッフの打ち上げに顔を出した後に2人だけで抜け出すんだよね。恋人同士がする「パーティを抜け出そうぜ」みたいな感じ(笑)。

新宿で一番いいホテルのスイートルームを取って、その日のビデオを見直すの。バスローブを着て、シャンパンのボトルをポーンと開けて。一緒に風呂まで入った。

みうら

恋人気分でね(笑)。

親と友達になるのが親友
さらにその上は親戚

みうら

2人でクリスマスや誕生日も一緒に過ごしてきたもんね。

いとう

「きっと君は来〜な〜い」と山下達郎を歌いながら寺に向かったよね。キリスト教の大事な日に寺にいる面白さ。自分たちは世の中からはぐれて2人っきりだ、みたいな呪術があった。
あと、みうらさんの誕生日には待ち合わせした渋谷駅のベンチに2人の名前が入った千社札も貼った。「誕生日おめでとう、記念に貼ろう」とか言って(笑)。

みうら

ラブホの落書き帳じゃないんだから(笑)。そういう世界観がブームだったってことだよね。

いとう

仲が良いってことが、こんなにも可笑しいことなのかと。

みうら

仲良きことは美しきことじゃなくて、可笑しいんだよね。

いとう

恋人なら相思相愛でチューだけど、親友は相思相愛でゲラゲラ笑っている。そこがいいんだよね。

みうら

親孝行見仏記ではお互いの親とも旅をしたけど、親友と書くだけあってやっぱり親とも友達じゃないとね。実家に連れていくのは恋人と同じ。恋人扱いした人が親友ということなんだよ。

いとう

最初にみうらさんの親に会ったのは京都の寺を見に行った時。実家に泊めてもらったよね。驚いたのは、お母さんもスクラップブックを作っていたこと。
箸袋のスクラップを見ながら、みうらさんと出会った夜を思い出した。親に会うと相手のことがよりわかるよね。みうらさんのまじめなところはお父さん似、はっちゃけたところはお母さん似。

みうら

親とも友達になるとさ、普段は恥ずかしくてとても言えない歯が浮くようなセリフが言えたりするからね。「息子さん、本当優しい方ですよね。そりゃ人気者にもなりますよ」なんてね。それも親と三角関係になることで成立する話でさ。

いとう

親は、やっぱり息子が褒められるのは嬉しいもんだからね。

みうら

相方の親を喜ばせるのが嬉しいって相当すごいよね。親も「そろそろ結納を」って言ってくるんじゃない(笑)。親友の上は親戚狙いだからね。

そう考えると俺たちはもう籍を入れたようなもんじゃないかなぁ。だって俺、遂にいとうさんの横で寝られるようになったから(笑)。

みうらじゅん、いとうせいこう
いとうさんの初来訪時とは場所が異なるが、当時を偲んで取材はみうらさんの事務所で行われた。前日に届いたセクシードールが2人の友情を見守った。

いとう

みうらさんはすごく気を使う人だから、人がいるとサービスしてしゃべっちゃうんだよね。それが近頃は、新幹線の横の席でいい寝息をたてて寝るようになった!俺、実はジーンときてるんだよ(笑)。

みうら

ここまでくると、もう熟年夫婦の仲だよね。俺はね、いとうさんが唯一、自宅でならベロベロに酔うことを知った時は嬉しかったな。俺は随分長いこと、2人でベロベロになるまで酒を飲むことを待ってたから。

でも、外で飲んでも一向に乱れないんだよね、いとうさんは。3年ぐらい前に、とうとう家でベロベロになる姿を見てさ、何だかやっと心を許してくれたって感じがして嬉しかったよ。

いとう

遂に家にまで来るようになったからね。しかも予告もなしにピンポン(笑)。
みうらさんは、親戚であり、恋人であり、戦友だよ。

みうら

うわぁ。全告白だね(笑)。

『見仏記』の1巻で33年後の3月3日に三十三間堂で再会する約束をしたんだけど、それももう13年後だよ。

いとう

あの頃に書いた33年という年月は永遠という意味だったんだよね。できないことを誓っている2人の切なさを書いたつもりだったんだけど、実現可能になってきた。

みうら

その頃は俺、70歳前ギリギリで覚えてられるかわからないけどね(笑)。
新幹線ツアーを組まなきゃね。おじいさん、おばあさんになった『見仏記』ファンとさ。

いとう

みんな来るだろうね〜。

みうら

そしてさ、夜にはまた、2人っきりで抜け出そうよ!

いとう

いいね〜。ちょっとした小料理屋の個室を予約してさ、遅くまでしゃべるんだよ、きっと。

みうら

俺、胃を全部取っちゃったんだ、とか言ってね(笑)。最終的にダブルオムツで仏像を語るようになるわけだし(笑)。

いとう

この頑固者が、どんなふうに年を取っていくのか楽しみだよ。

みうらじゅん、いとうせいこう
自身がデザインしたオリジナル仏像、つっ込み如来を持つみうらさん(左)と、釈迦降誕の姿を表す仏像、誕生仏を持ついとうさん(右)。