この作品、「ゲーム好き」だけの楽しみにしておくのはもったいない!
世界売上本数3億本超えの大人気ゲーム「マイクラ」こと「マインクラフト」を実写映画化した、『マインクラフト/ザ・ムービー』。
マイクラ・ファンは、「ジュマンジ」シリーズや『レディ・プレイヤー1』のように、あのマイクラのピクセル・ワールドの中に人間が実際に入っていくわけだから、それだけでワクワクが止まらないかもしれないけれど、実はこの映画、世界中で大ヒットしている事実が示す通り、マイクラをやったことがない人でも十分楽しめる作品になっている。
主演の一人がジャック・ブラック、そして監督がジャレッド・ヘスと聞いたらわかる人はわかるだろう。そう、あのおバカ映画の傑作『ナチョ・リブレ 覆面の神様』のコンビによる映画なのだ。そう、面白くないはずがない!
ストーリーはこう。子どもの頃から鉱石の採掘場に憧れていたジャック・ブラック演じる主人公が、大人になり、いざ採掘場へと足を踏み入れると、何とマイクラワールドへと転送されてしまう。そして、彼はそこで動物モブのオオカミを手なずけて愛犬デニスにし、さらに自分の家を建て平和な村を構築していく。そんな彼の名はスティーブ。そう、マイクラ・ファンなら誰もが知っている、あのプレイヤー・キャラのスティーブになるのだ。

さらに、それを追うかのように、かつてはアーケード・ゲームのチャンピオンだったものの、今は田舎町のヴィンテージ・ゲーム屋のオヤジへと成り果てたジェイソン・モモア演じるギャレット、親を亡くしてその町にやってくることになった姉弟・ナタリーとヘンリー、そしてその姉弟を見守る移動動物園の園長・ドーンもマイクラワールドに転送される。そして、5人は力を合わせ、闇の世界ネザーの支配者マルゴシャの悪の手から、平和な世界を守ろうとする。
と書けば、一見威勢の良いアドベンチャー映画にも思えるかもしれないが、登場人物たちはそれぞれが現実世界ではうまくいっていない、いわゆる人生の負け組キャラ。そんな社会の片隅にいるような人々を、可笑しくも魅力的に描くところが、あのオタク映画『ナポレオン・ダイナマイト』を生み出したジャレッド・ヘスならではのセンスで最高なのだ。

それに加えて、ある意味何でもありのマイクラ・ワールドの中では、何とプロレスまで行われてしまう!これは、ヘスとブラックが組んだ『ナチョ・リブレ 覆面の神様』へのセルフ・オマージュと言わずして何と言おう。そのために、これまであまりコメディのイメージがなかったモモアを登場させたのではないかと、いぶかしく思ってしまうほど。
それだけではない。本作では、随所でロックのリズムにのせたブラックの歌唱も楽しむことができるのだけれど、これは、まるでブラックのヒット作『スクール・オブ・ロック』(監督はリチャード・リンクレイター)ではないか!劇伴は、元ディーヴォで、初期のウェス・アンダーソンの映画音楽も手がけていたマーク・マザーズボーが担当しているが、ブラックが歌う曲は、何と本人の自作曲だというから嬉しい。
そんな次第で、この映画は、大人から子供まで世界中で絶大な人気を誇るゲームの映画化だからこそ、潤沢な資金が投下された大作ではあるものの、そこに流れるスピリットは、ヘスやブラックがこれまで作ってきた低予算のインディおバカ映画と何も変わらないというところが最高にクールなのだ。
とは言っても、本作は、ゲームとしてのマイクラの魅力もしっかり伝わる作品にもなっているので、その点はご心配なく。マイクラの開発会社、〈モージャンスタジオ〉のクリエイティブ・ディレクター、トルフィ・フランス・オラフソンが監修しているので抜かりがない。
もちろん、昼夜のサイクルもあるし、夜になれば、ゾンビやクリーパーのような敵モブも攻めてくる。愛嬌のある動物モブもふんだんに出てくるし、だからこそ、現実世界では移動動物園の園長をやっているドーンというキャラクターも効いてくる。
また、マイクラでは、様々な鉱石を使って武器を作れるのも魅力だが、実は登場人物の一人、ヘンリーは天才発明少年という設定で、だからこそ、転校したばかりの学校ですぐに溶け込めないのだが、マイクラ・ワールドでは、、もともと持っていた発明の才を遺憾なく発揮する。

そんなふうに、彼らは、現実世界ではうまく立ち回れなかったものの、マイクラ・ワールドでは、それぞれのやり方でクリエイティビティを発揮する。そして、それこそが、マイクラの持つ魅力ではなかったか。
オープンワールドの中で、誰もが自由自在に無限の想像力や創造力を発揮できる場所。その世界で一時過ごした彼らは、現実世界に戻っても、きっと前より自信を持って、社会や世界と関わっていけるはず。そんなエンパワーメントなメッセージに溢れた『マインクラフト/ザ・ムービー』。マイクラ・ファンならずとも、ぜひ劇場へ足を運びたい。
あわせて観たいジャレッド・ヘス&ジャック・ブラック作品
『ナポレオン・ダイナマイト』
「バス男」こと、ジョン・へダー演じるオタク、非モテ高校生たちの冴えない日常を描いた、天才ジャレッド・ヘス監督の出世作。40万ドルで製作されたインディ映画ながら、4,500万ドル以上のヒットとなったおバカ映画の金字塔。

『ナチョ・リブレ 覆面の神様』
ジャレッド・ヘスとジャック・ブラックが初めてタッグを組んだ作品。ブラックが、「メキシコの覆面プロレス、ルチャリブレに憧れている修道僧」という設定自体がすでに爆笑もの。ブラックの身体能力の高さにもご注目。
『スクール・オブ・ロック』
バンドをクビになり、ひょんなことから名門小学校に教師として赴任することになったジャック・ブラックが、生徒たちにロックの魅力を教え、みんなでバンドバトルに出るまでを綴った最高の音楽映画の傑作。監督はこれまた才人、リチャード・リンクレイター。
