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「芸人は自分たちのことを“すごい”と思いすぎですよ」肉体派・毒舌芸人のみなみかわ、冠ラジオ番組で見せる新境地

TBSテレビ、半年に1回のお祭り『オールスター感謝祭』で賑わっていた春の夜。同局内では、あるラジオ番組が静かにスタートしていた。その名も『秘密諜報員みなみかわ』。記念すべき初回収録の現場で、その裏側に迫る。

photo: Asami Minami / text: Kazuaki Asato

トレードマークの剃り上げた頭はキャップで隠しているが、ツーブリッジの眼鏡越しに見える眼光は鋭い。「収録時間はあんまり気にせずしゃべってみますんで」と、その男は言う。この春スタートしたばかりのラジオ番組『秘密諜報員みなみかわ』、その打ち合わせでの発言だ。さまざまなジャンルのスペシャリストを呼び、その活動について真っ向から聞くというシンプルなゲストトーク番組である。

「スタッフさんからは“笑える面白さよりも、知的好奇心をくすぐる番組にできたら”と言っていただきました。僕自身、いろんな人の話を聞くのが好きなんで、ありがたいお話でしたね。単純にね、芸人以外の人と話すのが好きなんですよ。芸人って、自分らのことを“すごい”と思いすぎじゃないですか。もちろんそれなりに技術はありますよ。でも正直、誰でもできると思う。そういう冷めた気持ちが僕にはあるんで、だったら別ジャンルの天才とか変わった人たちから話を聞く方が楽しいんですよね」

ブース内にゲストを迎えたみなみかわは、深々と頭を下げる。テレビでは体を張った芸や、ゴシップや毒舌でブレイクしたが、ここではすこぶる紳士的だ。収録が始まると、丁寧な相槌と進行で、ゲストの話を引き出していく。初回に招かれたのは東京大学医科学研究所で「老化研究」に携わる中西真教授。みなみかわは、時折笑いを交えながら老化研究の最前線に迫り、中西教授のチャーミングな人柄をも、炙(あぶ)り出していた。

「良い意味でも悪い意味でも“みなみかわの一人語り”を予想した人たちの思惑は外れたでしょうね。今のところこの番組は、運転中のドライバーさんが“コイツ誰か知らんけど、なんかおもろい話してんな”と思ってくれたらっていうイメージでやってますんで」

収録中、ディレクターも放送作家もまったく指示を出さなかった。それはパーソナリティとして信頼されている証しか。打ち合わせ中の言葉とは裏腹に収録はほぼオンタイムで終わった。

芸人のみなみかわ

「とにかくスタッフさんに好かれたいんです。東野(幸治)さんがよく言ってますけど、芸人は歯車でしかない。結局、言われたことを全うするだけなんですよ。“やれ”と言われたらなんでもやってきた。そしたら“体、張れるんだね”とか“毒舌もゴシップもイケるやん”と気づいてもらえた。僕はブレイクしたんじゃなくて、芸人を辞めなかっただけ。今年43歳になりますけど、この年齢で体張れる芸人ってあんまりいないでしょ。ホンマにスキマ産業でなんとかやってる歯車なんです」

そうは言うが、現在みなみかわはラジオやPodcastなどの音声コンテンツだけで、6本ものレギュラーを抱えている。こんなにもしゃべり仕事で重宝される秘訣はなんなのだろうか。

「これ言ったら怒られるかもしれないですけど、ラジオ愛がないから使ってもらえてると思ってます。僕はラジオを聴いて育ったとかじゃないんで、エモーショナルな気持ちがないんですよ。いただいた仕事を一生懸命やるっていう感覚だけなんで、スタッフさんも使いやすいと感じてくれてるのかもしれないですね」

『秘密諜報員みなみかわ』の収録を終えた彼は、すぐさまフロアを移動し、『オールスター後夜祭』のスタジオへと向かった。この生放送では、ドッキリを仕掛けられて道化を演じ、爆笑をかっさらった。与えられた仕事は全力で取り組み、確実にこなす。時と場所に合わせて臨機応変にギアチェンジするこの男から、目も耳も離せない。