ドイツのメリタさんが生み出した、ペーパードリップという日常の魔法
世界のどこかで、きっと今も誰かが大切な人のためにコーヒーを淹(い)れている。飲みたいときに、飲みたい分量をさっと手軽にハンドドリップ。今では当たり前になったそんな光景を可能にしたのは、ドイツのドレスデンに暮らすメリタ・ベンツの台所での実験と発明だった。
底に穴を開けた真鍮(しんちゅう)カップにノートの切れ端を入れ、挽いたコーヒー豆を濾(こ)す。これを発端に世界初のペーパードリップシステムが考案されたのが1908年。紙で濾すことで雑味を減らし、コーヒーの粉末が液体に落ちるのを防ぎ、淹れたあとは紙ごと捨てることができる。その発明は、メリタ社の前身となるM.Bentz社の設立を機に研究と改善を重ね、世界各地に広がっていくことになる。
メリタ社は、1936年に現行のドリッパーの原型となる円錐形フィルターシステムを開発。60年代には挽いてから真空密封したコーヒー豆を市場に送り出し、家庭用コーヒーメーカーの発売に続いて焙煎工場も始動する。74年に設立された日本法人は今年で50周年を迎えた。
97年、0.3mmという超微細なアロマホールを備えたフィルターペーパーが完成。独自製法により繊維のムラをなくし、接着剤を使わないフィルターペーパーには、上・中・下段でホールの数を変えるスリーアロマゾーンが採用された。2012年には、S字ろ過システム・アロマプラスにより、コーヒーオイルをより多く抽出し、香りとコーヒー本来の風味をしっかり引き出すフィルターペーパー「グルメ」の販売もスタートした。
17世紀にはすでにコーヒーハウスができ、社交の場として賑わいを見せていたというドイツ。現在も世界第3位のコーヒー消費量を誇る“コーヒーの国”から、世界150ヵ国以上に広まっていったメリタのペーパードリップシステムが、長く愛され続ける理由は、特別な技術を必要としないシンプルな抽出方法にある。
ドリッパーにセットしたフィルターペーパーに挽いたコーヒー豆を入れ、適温の湯で蒸らしたら、あとは杯数分のお湯を一度に注ぐだけ。フィルターペーパーに設けられた溝とコーヒーフィルターの一つ穴の抽出口が湯の流れをコントロール。安定感のある味わいを約束してくれる。
「家族においしいコーヒーを淹れてあげたい」というメリタ婦人の優しい願いは、国境も時代も超えて、現代の日本に暮らす私たちにもコーヒーを飲む幸せを手渡してくれる。
メリタジャパンお客様相談室
TEL:0570-550267(月~金9時~12時、13時~17時30分。土・日・祝・年末年始を除く)