平面も柱も、「棚」へと進化する。
トム・サックスの“ノーリング”美学
「スタジオの空間すべてがノーリングされている」とトムは言う。「KNOLLING」とは、彼が提唱する独自の収納法だ。その手法を説明しよう。まずは身の回りのモノをすべて実際に使っているかどうかで分類し、使っていないモノはしまい込む。使うモノは「仲間同士」でグループ分けをする。そしてグループごとに全アイテムを平行・垂直もしくは90度の角度にカッチリと並べれば、完了!
整理法であると同時に、トムの創作理念にも通じる概念だ。シンプルながら合理的なこの手順を隅々にまで徹底することで、スタジオの能率は向上する。また大勢のスタッフが機械工具や危険物も扱う現場だけに、高い識別性=安全管理というメリットの重みは計り知れない。
3フロアにわたる巨大な空間にひしめく棚、そして棚。仲間同士でそれぞれまとまったアイテム群に充てられた、専用の「居場所」が棚と言っても過言じゃない。奥行きは作らず「面」で展開することで、視認性が高まる。トムやベテランスタッフはもちろん、新入りスタッフでも必要なモノのありかがすぐわかるのだ。
面白いことに、トム独特のこだわり抜く美意識までもが「ノーリング」によって浮かび上がってくる。そう、棚の一つ一つがまるで彼の生み出す立体作品のように見えるのも、実は決して偶然ではないのである。