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寝ちゃってもいいコンサート?!マックス・リヒターが脳科学者と共に手がけた楽曲「スリープ」

もちろん!いいんです。会場にはベッドが並べられ、観客はぐっすり。こんな前代未聞の睡眠コンサートを成し遂げたのは、ポストクラシカルの旗手マックス・リヒターだ。睡眠時の脳の状態を研究し、最高級の“眠り”と“目覚め”の体験を目的に「スリープ」は作られた。最高の眠りと音楽について、リヒターに聞いた。

text: Keiko Kamijo

眠ってもいい、いやむしろ積極的に眠りを誘発し安眠へ誘導し、生まれ変わったような心地よい覚醒へと導く、そんな曲がある。ポストクラシカルの旗手マックス・リヒターが手がけた「スリープ」だ。

睡眠と音楽の融合に興味を持ったリヒターは、脳科学者のデイヴィッド・イーグルマンから話を聞き、リサーチを重ねて8時間に及ぶ楽曲「スリープ」を作り上げた。曲が生まれた経緯についてリヒターはこう語る。

「ボブ・ディランやウディ・ガスリーのように、私も曲作りはレジスタンスだと考えています。私たちは、資本主義でネオリベラルな社会を生きていますが、そこには私たちの人間らしくあるための基盤を脅かす部分がある。24時間情報に侵食される生活から解き放たれる作品を書きたいと考えていました。もう一つ、パートナーのユリアの経験があります。ユリアが私のライブを配信で聴いていた時に、眠ったり起きたりして、夢と現の境界線を彷徨う体験をしたと話していた。そこから企画を構想しました」

そして、睡眠導入から深い眠り、心地よい覚醒までの8時間に及ぶ未知の音楽体験として公演を計画する。真夜中から始まるコンサートで、会場にはベッドを並べる。また音響のテクニカルなハードルも高く、場所探しは難航を極めたが、世界数ヵ所でのコンサートが実現した。観客はベッドに寝ながら曲を体験するわけだが、果たしてそれは身体にどんな影響があったのだろうか。

「公演はBGMのような静かな音ではなく、コンサートレベルの音量で行われるので、音の振動は確実に身体に影響を与えていたでしょう。『スリープ』は、意図的に超低音域を用いているのですが、可聴周波数以下の音域は身体に影響を与えることがわかっていて、セラピーの現場でも研究されています。無意識下であっても、きっとなんらかの音楽体験をしているはずです」とリヒター。

映画では、恋人や家族と寄り添う人や、ヨガや瞑想をする人、それぞれが心静かに作品を堪能する姿が見られた。また、映画全体が「スリープ」を追体験できるように構成されており、眠りから目覚めた時は、まるで見ている自分も生まれ変わったような深い感動が味わえる。ぜひ日本でも8時間公演を実現してほしいが、まずは映画館で体験したい。

作曲家マックス・リヒター「SLEEP」公演の様子
2018年7月28日、ロサンゼルスで開催された「SLEEP」公演。会場に置かれたベッドで音楽に包まれて、思い思いに過ごす人たち。映画では、難民だったユリアにより、安眠する場のない難民救済への思いも語られる。©2018 Patrick T. Fallon Credit: Patrick Fallon/ZUMA Wire/Alamy Live News

8時間に及ぶ公演「SLEEP」が、
追体験できるライブドキュメンタリー

『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』

作曲家マックス・リヒターのドキュメンタリー映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』
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