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「おふざけがないと恥ずかしい」。松尾スズキと清水ミチコが改めて語る、それぞれのルーツ

松尾スズキさんは、初の個展『松尾スズキの芸術ぽぽぽい』を開催。清水ミチコさんとは年に1度、清水さんのコンサートの映像で共演して10年になる。笑いにこだわる2人のスペシャルトーク。

photo: Kazuharu Igarashi / text: Tomoko Kurose

人見知りの2人。おふざけがないと恥ずかしい

松尾スズキ

清水さんが10年前に初めて日本武道館で開いたコンサートで、「セットチェンジの歌」の映像に出演させてもらったのが最初の出会いですよね?

清水ミチコ

私は松尾さんのような陰と陽を併せ持っている人がすごく好きで。陰があるから、陽の場面でパッと弾ける。今度のツアー『清水ミチコアワー〜ひとり祝賀会〜』の映像は、〈浅草フランス座演芸場東洋館〉で2人の漫才を撮ったのですが、その場で台本を渡したら、即座に絶妙に変な人をやってくれました。

松尾

あんなカツラを被せられたら、普通のしゃべり方はできませんよ

清水

これがほんとの髪形漫才。

松尾

10年間、毎年、撮影でご一緒しているけれど、実はちゃんとお話ししたことはなくて(笑)。

清水

お互い人見知りなのでね。松尾さんが個展を開くほど絵を描いているなんて知らなかった。

松尾

もともとは漫画家志望だったんですよ。

清水

小さい頃から絵を描くのが好きだったんですか?

松尾

幼稚園の時に骨折で入院して、お絵描きや漫画を読む楽しみを覚えました。九州の片田舎に育ったので、地元では「俺が一番絵がうまい」くらいに思っていたんだけど、九州の美大に行ったら、九州中の絵の上手な人が集まってきていて、プライドを叩き潰されました。

清水

そのコンプレックスは克服したんですか?それとも諦めた?

松尾

それで演劇に走ったんです。

清水

アハハ、逃げたのか。学校って、おそらく描くことが義務になってしまうけど、その点演劇は、自由に表現できる場だったんじゃないですか?

松尾

そうですね。僕は体の変な動きが好きなので……。

清水

そう「セットチェンジの歌」の時から思っていたけれど、松尾さんの動きは独特なんですよね。誰にもできない、あのダンスには嫉妬しました。

松尾

習ったこともないし、デタラメなんですけどね(笑)。

清水

あれでデタラメなら天才じゃないかなと思う。ダンスの素養はどこから?

松尾

高校生の頃、『ブルース・ブラザーズ』のジョン・べルーシが大好きで、あの動きができるようになりたくて、一人、部屋で踊りまくってました。誰に見せるでもなく。

清水

10代って人生で一番変態な時期だよね(笑)。私は高校時代はずっと桃井かおりで。「(桃井の口調で)宿題やんなくちゃね」とか自分の部屋で一人で言ってた。桃井さんになったつもりなの。

松尾

人に見せて初めて成立する表現と、そうじゃない表現がありますけど、人に見せなくても成立するのは音楽と絵画だけかと思ったら、モノマネもそうだったんですね。

2021年の清水さんのコンサートで流れた「カラオケ映像あるあるの歌」。
2021年の清水さんのコンサートで流れた「カラオケ映像あるあるの歌」。

生の笑い声を浴びる快感

松尾

清水さんは、練ってネタを作るタイプの人でしょう?その世界に足を踏み入れるきっかけはあったんですか?

清水

中学の時に、先輩に生徒会副会長に立候補するから応援演説をやってくれと頼まれたんです。張り切って書いて、くだらないことを詩の朗読のように読み上げたら、大ウケしたの。その時、自分の人生が決まったような、こんな喜びがあるのかと感動しました。

松尾

たくさんの生の笑い声を浴びるって、強烈な体験ですよね。

清水

あの快感が忘れられなくてやめられない人は多いと思う。

松尾

清水さんのように歌やピアノができてネタも作れる人はほかにいないですよね。アーティストの技法を解説しながら本人の人格にまで言及する「作曲法」シリーズとか、すごく知的な笑いです。

清水

実家が高山でジャズ喫茶を経営していて、お客さんがカウンターで新譜の悪口をよく言ってたんです。何も演奏できないのに、ひどい悪口を言っていることに腹が立って。音楽を批判する時は、自分も恥をかくような演奏系がいいなと思いました。ある意味、復讐(笑)。

松尾

(笑)。あと、毎年新しいアーティストのネタをやるでしょう?すごくアンテナを張ってらっしゃるなあと思います。僕、Official髭男dismは清水さんのライブで知りましたもん。「うっせぇわ」の曲に乗せた瀬戸内寂聴さんの法話のモノマネとか大笑いしたなあ。

描く楽しさを思い出した

清水

松尾さんは、好きな画家を真似て描いたことはあるんですか?

松尾

漫画の模写はしてました。赤塚さんや松本零士さん、モンキー・パンチ……。大学に入った頃は、80年代風の絵柄が流行っていましたが、僕だけ60〜70年代の絵柄を引きずっていて、ついていけなかったんです。だから、今回、古い絵柄で押し通すという復讐をしています。

清水

地味な復讐(笑)。

松尾

芝居を始めてから、絵はほとんど描いてなかったんですが、コロナ禍の緊急事態宣言の時に久々に時間をかけて描いてみたら、楽しさを思い出したんです。でも、やっぱりギャグっぽい風味を入れないと描けないですね。印象派みたいな絵も描けますけど、とても恥ずかしくて。

清水

私も、モノマネ自体は集中しないとできないので、笑わせるどころじゃないけれど、全体的には「お笑いとしてやっています」という顔をしていないと恥ずかしいですね。

松尾

清水さんのコンサートでは、時事ネタをたくさん取り入れてますけど、どのくらい前から準備しているんですか?

清水

3、4ヵ月くらい前ですかね。でも、最近サイクルが速くて、話題の事件もすぐ古くなっちゃう。「ネタにできるわるい事件起きてくれ」とひそかに願ってます。

松尾

やる前に「亡くならないでください」というのもありますよね?

清水

(「秋川雅史「千の風になって」風に)「♪亡くならないでくださーい」

松尾

「♪私のモノマネのまーえにー」

清水

あ、これできるね。いただき!

左:清水ミチコ。右:松尾スズキ

タッチもさまざまな、松尾スズキの描き下ろし作品