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愛する

松本零士の人生にはいつだって“ミーくん”がいた。「親であり兄弟であり、子供。猫は家族です」

幼少期から猫が身近な存在だった漫画家・松本零士さんにとって、猫は人生の伴走者。時に大変なこともあるけれど、やっぱり猫がいるのは幸せなことだと教えてくれる。

初出:BRUTUS No.936「猫になりたい」(2021年4月1日発売)

text: Yuriko Kobayashi

私にとって猫はね、親であり兄弟であり子供。生まれた時から猫とずっと一緒でしたから、いつの時代も家族なわけです。20匹以上の猫と暮らしてきましたけど、忘れられないのは別れの時。戦時中、疎開で家を離れることになって、泣く泣く猫を置き去りにしたのが最初の別れでした。その時の猫の表情は今も脳裏に焼きついています。忘れられないですよ。

今飼っているのはトラジマのオス猫で「ミーくん」という名前ですが、これが4代目なんです。初代のミーくんは20代の頃、結婚して西巣鴨の借家に住んでいた時に迷い込んできた子でした。あれはクリスマスの夜で、窓枠に必死にしがみついていて、それでウインナーをあげたら喜んで私から離れようとしないんですよ。

「お前はミケか?タマか?」って聞いても返事をしない。でも「ミーくんか?」と聞いたら返事をしたんです。それで名前がついたんです。

初代ミーくんは13歳の時、乳がんで亡くなりました。私の布団の中で抱かれながら息を引き取ったのですが、それは悲しかった。もうしばらく猫は飼えないと思っていたんですけど、ある日天井裏で野良猫が子供を産んでいるのを見つけましてね。

ゾロゾロ転がり落ちてきた仔猫の中にミーくんそっくりなトラジマがいて、これはミーの生まれ変わりだと。それで同じ名前をつけました。その後も不思議とトラジマの猫に縁があって、今一緒に暮らしているのもトラジマです。

漫画家・松本零士と愛猫の4代目ミーくん
写真提供/零時社

『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』などの作品に登場する猫もモデルはミーくんなんです。よき仲間であり、共に戦う戦友でもある。猫って飼い主のために身を捨ててでも戦おうっていう時があるんですよ。終戦直後のまだ野犬がいた頃、大きな犬に噛みつかれそうになったことがあってね。その時も飼っていた猫たちが一斉に飛び出してきて、毛を逆立てて犬に向かっていったんです。そういう思い出も作品の中の猫たちに投影させているかもしれません。

もし人生に猫がいなかったら?それは寂しいねぇ。親も兄弟も子供もいない人生なんて考えられないでしょう?それくらい寂しいよ。

松本零士の漫画『トラジマのミーめ』
『トラジマのミーめ』(1978)のワンシーン。
初代ミーくんとの出会いから別れを描いた。「永遠に一緒にいるんだって気持ちで漫画にしたんだ」(秋田文庫/秋田書店)©松本零士/零時社