半世紀変わらない、名建築の気持ちよさ
実際に建築を見て、開口一番「変な構造ですよね」とつぶやく。吹き抜けの居間を見渡して、スケッチを積み重ねて造られたこの建築が持つ稀有な特徴について話してくれた。
「意図的に木造の箱の木組みをずらす構造からは、まず柱などの細部からスケッチを描き始め、建物全体を組み立てていく宮脇檀ならではの設計方法が読み取れます」
細部を描き組み立てられた〈松川ボックス〉。「変」と感じるのには、時代の影響もあると続ける。
「1970年前後は、日本の伝統と近代建築の言語を統合する動きから、やがて劣悪な都市環境への対策として外の世界を切り離した住宅が生まれました。それぞれの代表例として66年竣工の木造モダニズム住宅である〈白の家〉、76年竣工のコンクリート造のミニマルな住宅〈住吉の長屋〉があります。71年竣工の〈松川ボックス〉は双方の特徴を持つ、移行期ならではの独特な雰囲気ですよね」
時代の影響を受けながらも、独自の設計方法で作られた〈松川ボックス〉。居間から中庭を見た藤村さんは、時代に左右されない宮脇檀の「気持ちよさ」を体感したという。
「〈松川ボックス〉は一見すると小さな、外部との関わりを持たないミニマルな建築のようにも思われます。しかし居間に立つと、中庭へ空間が連続して繋がっていることがわかります。そのおかげで不思議と狭さは感じませんね。広く取った居間や中庭にも、快楽主義者である宮脇さんの“建築は気持ちいいものでなければならない”という信念を感じます」