「オールドマルニ」だけを集め、アップサイクル
広島を拠点とする〈マルニ木工〉が1950年代初頭から1970年代半ばまで製造していた家具で、「オールドマルニ」と呼ばれる個体だけを集めたイベントが行われる。半世紀以上前に作られた家具ということもあり、入手困難であったり、コンディションも様々。一部のモデルはオークションに出てもすぐに買い手が決まってしまうほど。今回は単にリペアして売るだけじゃなく、塗装や生地の張り替えを施し、アップデートしたリノベーション家具として販売する試みだ。
それを監修するのは、自他共に認める家具好きの藤井隆行。元は傷ついたり破損した家具も多いが、藤井のセンスと、〈マルニ木工〉の木工技術により、機能美や実用性を備えた完璧な家具として生まれ変わらせるという。
こういったアップサイクルの考え方は、〈マルニ木工〉が創業依頼大切にしてきたことであり、ユーザーが長く大切に家具と向き合ってほしいという思いの表れである。「オールドマルニ」は数が少ないので、本来はオンラインでのみ限定的に販売されていたが、今回は実物を見ながら選ぶことができるという意味でも、貴重な機会だ。
象徴ともいえる孔雀のロゴにもアレンジが加わる
「当時はマーケティングという概念を持たず、自分たちが信じる家具を作り続けていた時代でした。家具作りに一途な職人の魂が乗り移っているかのように感じるからこそ家具好きは『オールドマルニ』を選んでくれるのでは」(マルニ木工・中澤英司)
茨城県の坂東工場に実際に足を運んだ藤井さんからはさまざまなアイデアが生まれる。例えば、マニアの多い「デルタチェア」の座面をペーパーコードに。また、コレクターを魅了するレトロ感のある孔雀ロゴを、藤井さんは限定モデルの証しとして、真鍮シールにアレンジすることを提案。
お次は「ショパン ロッキングチェア」。肘と前脚の接ぎ目に真鍮のリングが使われているが、それとリンクするように背もたれの先の部分にも真鍮のリングを希望。これについて藤井さんは「服でいうところのセットアップです」と表現。その場ですぐにイメージを共有するため、真鍮に近しい色合いのテープを巻いたら、椅子の表情が驚くほど一変し統一感が生まれたという。
「ショパン ロッキングチェア」は〈マルニ木工〉中澤さんの推しのひとつでもある。「これだけ脚のフォルムが繊細なのに荷重負荷にも耐えられる強度はカリン材ならではなんです。現在では入手も難しい木材なので再現は不可能でしょうね」と語る。
仕上がりの素晴らしさは、ぜひ伊勢丹新宿店に足を運んで実物で確かめてほしい。また、会場では藤井さんが手掛ける家具以外にも、購入する人が自分で好きな仕様にカスタマイズができる家具も用意。自分だけの一点ものをオーダーして、インテリアを個性的にアップグレードしたい。
〈マルニ木工〉中澤英司と〈ノンネイティブ〉藤井隆行、リノベーションを巡る対話
中澤英司
藤井さんと初めて今回の企画についてお話ししたときに、「自分が監修するからといって〈ノンネイティブ〉を推すつもりはないです。『オールドマルニ』は家具としてすでに十分に魅力的ですから」とおっしゃったのがとても印象的でした。純粋に〈マルニ木工〉のプロダクトに魅力を感じてくれていることがわかったのでお任せしたいと思いましたし、実際に驚きのアイデアばかりでした。
藤井隆行
「ショパン ロッキングチェア」の脚のリングは構造上必要だから存在しているのですが、家具を選んで買う側の自分からしたら飾りにしか見えません。補強のためではなく飾りとして捉えているので、もうひとつ加えれば見た目に統一感が生まれると思ったんです。
中澤
リングもそうですが、ひとつの家具に平らな面と丸みを帯びた面が共存している、それはどちらかに統一したいという意見はとても新鮮でした。それは作る側である〈マルニ木工〉には生まれない発想かもしれないです。4脚あった「デルタチェア」も色味を同じにすることにこだわっていましたよね。
藤井
家具は一点を眺めて楽しむということもできるかもしれませんが、夫婦ふたりで、家族4人で暮らしているならやはり表情が同じもので揃えたいと思うんです。家具は並んでいて、隣り合っていて絵になった方がいいという考えなので。
中澤
藤井さんの意見を聞く前に〈マルニ木工〉だけで「デルタチェア」をリノベーションしていたら色や座面の張り地をすべてバラバラにして、一点物のアートピースとして提案していたような気がしています。
藤井
家具の中でもチェアはデザインされることが今となっては普通ですが、「デルタチェア」はあの当時としてはとても頑張っているデザインだと思います。洗練されているかといわれたら、そんなこともないですが、あの時代感を残しつつ現代でも通用するのはプロダクトしての完成度だと思います。
中澤
現代でも通用すると言っていただけるのはうれしいです。〈マルニ木工〉の昔のカタログを見ると、社員である自分でもかっこいいと感じる家具は多いです。だからこそリノベーションをして、ずっと残し続けるのはひとつの使命なのかなと思っています。「つくるマルニ」だけではなく、「直すマルニ」「蘇らせるマルニ」でもありたいと思っています。