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鈴木おさむとミキ・亜生、漫画『ティラノ部長』の悲哀について語り合う

バブルの頃から会社のためにバリバリ働き、気づけば50代。かつてのような“肉食系”の仕事のスタイルも、だんだん周囲から疎まれるようになってきて───。漫画『ティラノ部長』は、そんな中年のサラリーマンの姿をコミカルに描いた物語だ。「将来、自分もこういうことが起こるんやろな」と深く共感しながら読んだというミキ・亜生さんと、原作を手がけた鈴木おさむさんが、『ティラノ部長』の悲哀について語り合った。

Text: Daiki Yamamoto

時代の流れについていけない『ティラノ部長』

亜生

最初に読んだときは「このキャラクターを愛せるかな?」って思ったんですよ。肉食の恐竜っていうだけで、悪者のイメージがありますよね。

鈴木おさむ

ティラノサウルスのキャラクターを主人公にしたのは、子供と恐竜のショーを観に行ったのがきっかけで。ティラノサウルスとトリケラトプスが戦うショーなんですけど、子供たちがみんなトリケラトプスを応援するんですよ。「肉食ってだけでこうも嫌われるのか」と思うと、ちょっと悲しくなっちゃって(笑)。

亜生

でも、1話目でティラノ部長の若い頃の話を読んで「昔はこんなに輝いてた人なんや」って思ったんです。それが時代の変化とともにだんだん会社でも肩身が狭くなっていって、それでも必死に頑張っている姿に心を打たれました。

鈴木

これ、芸能界でも同じなんですよ。ティラノ部長は今50代なんですけど、僕はその世代の芸人さんとずっと一緒に仕事をしてきたんです。90年代のテレビって、今では考えられないようなこともしてたし、肉食系の芸人も多かったじゃないですか。でも今はコンプライアンスも厳しくなって、昔のような番組は作れない。そういう時代の変化に順応している芸人さんもいる一方で、変化についていけない芸人さんもたくさんいるんです。

亜生

確かに今50代くらいの先輩芸人と話していても、窮屈さを感じてる人は多いですよね。

鈴木

そういう上の世代の人たちの悲しさを表現したくて『ティラノ部長』を書いたところもある。

亜生

ティラノ部長の気持ちも痛いほどわかるし、僕らの世代にも刺さる作品やと思いました。

必死に勉強する姿も愛らしい

鈴木

亜生くんの世代だと、ティラノ部長みたいに仕事一筋の人には憧れるの?

亜生

正直、仕事ばっかりしてる人がかっこいいとは思わなくなってますね。僕らも少し前までは休みが全然なかったんですけど、お兄ちゃんに子供ができて、休みを増やしてもらいました。芸人が「子供の運動会があるんで休みます」って言えるようになったのも、ここ2、3年ですよね。

鈴木

そうだよね。本当にこの2、3年で芸能界の価値観も劇的に変わった。

亜生

でも、僕らも今の時代の価値観が正しいと思っているけど、僕らが50歳になる頃にはまた時代の流れも変わってると思います。ティラノ部長が感じてるような苦しさとか切なさは、将来の自分の人生にも起こるやろな、と思いました。

鈴木

20代の読者でも、そう言ってくれる人が意外と多いんですよ。

亜生

僕、Zoomのエピソード(第3話)が大好きで。ティラノ部長もZoomがつながったことがうれしいんだから、みんなにもそれを話せばよかったのに……と思って。かっこつけずに、若い子たちについていくために必死に勉強してる姿を見せるのもかわいらしいと思うんです。

鈴木

「俺、今こんなの勉強してて……」って恥ずかしがらずに言っちゃう方が愛されるよね。

亜生

ティラノ部長も結局、めちゃくちゃかわいいところがいっぱいあるんですよ。僕もそういう愛らしいおじさんになりたいです。

亜生が選んだベストエピソード

第3話 リモート会議、決戦の時