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漫画家・町田洋が『砂の都』を上梓。不思議な孤島で暮らす人々の「記憶」と「建物」をめぐる物語

読み切り『船場センタービルの漫画』(トーチweb)が話題を呼んだ、漫画家の町田洋さん。単行本としては9年ぶりの新刊『砂の都』が上梓された。

illustration: You Matida / text: Tomoko Ogawa

忘れたフリをしても、残ってしまうもの

気配や記憶がとどまる建物や、惑星、そこにいるものたちの日常を描く漫画家、町田洋さん。町田さんの描く世界では、建物も、生きている人も、いなくなってしまった人も、犬も、亀も、歴史を、記憶を纏(まと)う生きものとして、並列に存在している。物語を読み進めていると、日常に落ちている小さなふしぎと、ふしぎな世界の日常をつなぐ扉が開かれ、現実の息苦しさからほんの少し解放される。

近年では、読み切り『船場センタービルの漫画』(トーチweb)が話題を呼んだ町田さんだが、単行本としては9年ぶりの新刊『砂の都』が上梓された。本作には、人の記憶が地響きとともに建造物となる不思議な孤島で、残された記憶に触れ、他者と関わり合い、暮らす人々が登場する。未知に飛び込むことを躊躇(ちゅうちょ)する若者は、年をとることに実感が湧かず、老人は失うからこそ年をとるのだと語る。

一見、淡々とし、素っ気なくも思えるキャラクターの表情や多くを語らないセリフ、背景を描き込むことで想像を狭めることをあえて拒むような白ベースの世界は、読者が「ちょっと失礼しますね」と入り込み、個人的な記憶や感情を結んで戻ってこられるような余白がある。

「優しい」と言ったら、「優しくない」と突き放されるような、押しつけのない優しさが心地よい。いつかはすべて忘れ去られてしまうという寂しさを前に、それでも覚えていたいという思いが、私たちを生かしている。