少年たちの親密な関係は、やがて――。
まるで自他の境界などないかのように、密接な関係を結んでいる13歳の少年、レオとレミ。だが「付き合ってるの?」とからかわれたことをきっかけに、レオはレミを遠ざけるようになり、程なく2人の関係は崩壊する。
初監督作『Girl/ガール』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞したルーカス・ドンは、第2作『CLOSE/クロース』において、セクシュアリティに苦悩し、アイデンティティに葛藤する少年の心の揺れを、どこまでも繊細に、エモーショナルなストーリーを通して描き出した。
本作の発端となるメモには、こんな言葉が書き留められていたという。「友情、親密、恐怖、男らしさ……」。彼はそこから、どのようにしてひりひりと胸のうずく、思春期の物語を作り上げたのか。
13歳の少年に立ち返って
BRUTUS
改めてこの作品のモチーフになったものを教えてください。
ルーカス・ドン
自分が大人になる中で若かった頃を反芻すると、自分から距離を置いてしまった人たち、遠ざけてしまった人たちがいると思ったんです。特に男子ですね。
男子同士の密接な友情を、若かった頃は求めてはいけないものだと勝手に考えていた。しかもそういった振る舞いときちんと対峙してこなかったから、自分と仲良くしたい、近くにいたいと思ってくれる人たちを自らはねのけてしまう、そういったメカニズムを大人になった今も持ち続けている。
でも実は、それって多くの人が感じていることのような気がするんです。人と距離を取ってしまう自分に罪悪感を覚えるようなことって。そういったところから、親密な人に対して、親密であるがゆえに恐怖心を抱いてしまうこと、その恐れが大事なものを壊してしまうことを描きたいと思いました。
B
この作品が描く少年同士の関係性には、自身の経験や記憶が反映されているということですが、それ以外に参照したものは?
ドン
13歳から18歳の少年100人を調査した『Deep Secrets: Boys' Friendships and the Crisis of Connection』という本を読んだ時に、自分の作りたい映画はどんなものかを、本当の意味で理解することができました。
男子の関係性について説明する際、『蠅の王』を持ち出す人が多いですよね。それは競争や力をベースにした関係性だと。でもその本の中で少年たちが語るのは、ラブストーリーの中で語られるような言葉だったんです。
ただ、13歳の少年が「相手がいなければ自分はおかしくなってしまう」とか、純粋な表現を用いている一方で、18歳の少年になるとまるで演じているような表現に変わってしまう。男はこうやって話さないといけない、とでも言うように。
僕からすると、個人の言葉が社会の言葉に変化してしまった気がしたんですね。そういったステレオタイプに対して、13歳の少年の柔らかい心に立ち返ることで挑みたいとも思いました。
B
この作品が素晴らしいのは、そういったステレオタイプなものではなく、人間の複雑な心を複雑なまま描き出しているところです。なぜそれが可能だったんでしょうか。
ドン
僕は若い頃、自分自身であるよりも、ほかの何かになりたいと強く思っていた。だから模倣したくて、人をよく観察するようになったんです。それで10代の頃には、人の感情や心理を理解する才能を自分は持っているのかもしれないと自覚していました。
自分を変えたいというような破壊的な気持ちからスタートした行為が、まさかこんなふうにポジティブな変化を見せるとは思わなかったけど、そうやってアイデンティティは変容し続けるものなんですね。
この映画そのものも、自分の辛さや苦しみに端を発する作品ではあるけど、変容してほかの人たちのものになったような気がしています。
B
本作がデビューとなる若い俳優たちから、こんなにも力強い演技を引き出しているのも驚異的です。
ドン
特に若い人たちと映画作りを行う際に、僕が重要だと考えているのは時間です。6ヵ月の撮影期間を通して、彼らと相互に理解を深めることができたし、共に過ごす中で僕は演じるために必要な鍵を渡す努力をしました。
サポートはするけど、「こう演じなきゃ」とは言いません。すると、彼らは自然に役柄を探求する刑事のようになっていって、演じるためには自分自身の何かを持ち込まないといけないことに気づくんです。
同時に、親密さについての映画なので、不快感を感じることのない空間作りを目指しました。そうやってコントロールする部分とコントロールしない部分、両方あることがクリエイティブなプロセスにおいては大事なんだと思います。