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交わらない視線が象徴する人との距離。「愛って、視線」な映画20選

愛は人間同士の関係の中に生まれ、関係は視線のやりとりから始まる。視線が交わる一目惚れの瞬間や、燃えるような感情が宿った熱いまなざし、交わらない視線が象徴する人と人の距離。言葉にならないさまざまな愛の瞬間は、視線を通して描かれてきたのだ。

illustration: Yoshimi Hatori / text: Eri Tsukinaga

『脱出』

恋愛/人情

ホークス映画における、女と男の視線の交わし方

ホークスの映画では、女と男はいつも同じ高さで視線を交わす。男に見下ろされ身を投げ出す女という構図はほぼなく、むしろ女の方が男を見下ろし屈服させる。本作でも、ローレン・バコールがハンフリー・ボガートを見下ろし自分を愛させるさまをたっぷりと堪能できる。

『肉体の冠』

恋愛

相手から目を離さずに踊り続ける悲劇の恋人たち

19世紀末のパリ、川辺のカフェで出会った娼婦のマリーと大工のマンダ。2人の恋はやがて悲劇に終わるが、愛した人の最期を目に焼き付けようと、じっと処刑を見守る女の覚悟に圧倒される。相手の目から一切目を離さずにくるくると回り続けるダンスシーンは圧巻。

『エル』

恋愛

女の脚に魅入られた中年男の、妄執的な愛

教会の席にずらりと並ぶ無数の脚。その中でひときわ輝く若い女性の脚に魅入られた純朴な中年男は、執拗に彼女を追い求めプロポーズするが、それが悲劇の幕開けだった。一方的な視線から生まれた愛のおぞましさがこれでもかと描かれる、ブニュエルらしい妄執的愛の物語。

『心のともしび』

恋愛

視力によって紡がれる愛と自己犠牲のメロドラマ

自分の過失によって失明した女性を助けたいと、素性を隠したまま彼女のそばに寄り添う男。やがて2人の間には愛と呼ぶべき何かが生まれていく。加害者と被害者間に生じた愛と自己犠牲をめぐる物語は成瀬巳喜男の『乱れ雲』にも通じる。視力によって紡がれるメロドラマ。

『妻は告白する』

夫婦愛/恋愛

愛する者を怯えさせる若尾文子の強烈な視線

登山中に夫を殺した罪に問われた妻。彼女をひそかに愛する男は無実を信じ続けるが、ある時心に芽生えた疑惑が徐々に広がっていく。女は果たして夫を殺したのか?ただの事故だったのか?若尾文子のあまりに真っすぐな視線が男を恐れさせ、すべてを崩壊させる。

『天使のはらわた 赤い教室』

恋愛

男の目に焼き付いた、フィルムの中の女の姿

偶然観たポルノ映画で、複数の男たちに暴行される女のすさまじい演技に魅入られた主人公は、彼女の居所を探し求める。彼の目に焼き付いたその場面が、実際のレイプ現場を映した恐ろしい映像だったとも知らずに。おぞましく凄絶な2人の運命は決定的に交わらない。

『コントラクト・キラー』

人情/恋愛

彼女と目が合った瞬間、男は生きる希望を取り戻す

人生に絶望した男は、殺し屋に自分の殺害を依頼する。だがカフェで花売りの女性に一目惚れした途端、彼は生きる意欲を取り戻し、殺し屋からの決死の逃避行が幕を開ける。ジャン=ピエール・レオが一目惚れする瞬間がとにかく素敵で、観ているこちらも幸せになる。

『ヤンヤン 夏の想い出』

恋愛/人情

自分の目に映らない何かを見つめ、映し取ること

いつも人や動物の後ろ姿ばかり写真に撮るヤンヤン少年。人は自分の後ろ姿を見られないから、という彼の言葉が示す通り、誰も自分の本当の姿を見ることはできない。そしてだからこそ映画が必要なのだ。そこに映る光の中に自分を認め、この現実を見つめるために。

『50回目のファースト・キス』

恋愛

毎日新たに自分を見つめさせ、出会い直す愛

記憶障害を患い1日しか記憶が保たない彼女は、熱烈な恋に落ちた相手のことも1晩限りで忘れてしまう。それでも彼女との恋を諦めない男は、毎日新しい出会いを演出する。それはつまり、毎朝目覚めた彼女の目にどんなふうに自分を見せるのか、という演出でもある。

『デジャヴ』

恋愛

視線が現実を変容させる美しき瞬間を映した映画

FBIが開発した過去数日間の監視映像装置を使い、フェリーの爆破事件を調査する捜査官。だがスクリーンに映る被害者女性と目が合った瞬間、彼は驚愕の事実を知る。その映像は「過去」ではなく「現在」のものだった。視線が現実を変容させる。その一瞬を映した映画。

『接吻』

恋愛

テレビ画面の中で見つけた、唯一無二の彼の顔

社会の中で常に不当な扱いを受けてきた孤独な女性・京子は、テレビのニュース映像に映った殺人犯の顔に釘づけになる。この男こそ私の真の理解者であり私だけが彼を理解できる。彼女の思いは止まらない。小池栄子の爛々と輝く目が忘れられない、最高のラブストーリー。

『シルビアのいる街で』

恋愛

ある女性を追いかけ街をさまよう男の視線

道を行き交う女性たちの顔を観察していた男は、偶然にもかつて知り合ったシルビアを発見。彼女を追いかけ街をさまよい歩く。ある女性の顔が忘れられず、その後ろ姿を追い続ける男の愛はやがて拍子抜けするような顛末を迎えるが、その視線の彷徨はこのうえなく美しい。

『アンナと過ごした4日間』

恋愛

愛という名のもとでの覗き見行為とその行方

隣の家に住むアンナを見つめ続けた4日間。覗き見行為を扱った映画は数多いが、ただ愛する彼女を見ていたい、という欲望にここまで忠実な主人公はそうそういない。自分を見てほしい、ではなく、自分だけが彼女を見つめていたい。その異様な愛の行き着く先は。

『追憶と、踊りながら』

親子愛/恋愛

亡き恋人の母親との、悲しき視線のすれ違い

同性の恋人カイを亡くしたリチャードは、自分が代わりに恋人の母親の面倒を見ようとする。だが、カイの母は息子が同性愛者だったと知らず、不審な目で見つめるだけ。言葉も思いも通じない中、愛する者を失った悲しみと、幸福な記憶とを宿した2人の視線がすれ違う。

『キャロル』

恋愛

2人の女の視線が交わる、最高の一目惚れの瞬間

2人の女性が出会うデパートでの場面を観るたび、これぞまさしく一目惚れの瞬間だと叫びたくなる。2人の視線がぶつかるまでの数秒間は、まるで永遠のように長く感じる。彼女が見つめ、その視線に気づいた者がふと目を上げる。恋の始まりを映すとはこういうこと。

『マリアンヌ』

親子愛/恋愛

愛し合う2人が見つめ合った瞬間、悲劇が起こる

二重スパイを疑われた妻と、彼女を信じようと苦悩する夫。大事なところで視線の合わない夫婦が、カットバックによって正面から見つめ合った瞬間、悲劇は起こる。女が娘に託す願いが悲しく痛ましい。「愛する人よ。あなたの目で、私が見られなかった景色を見てほしい」

『寝ても覚めても』

恋愛

一目惚れで始まり、視線の不一致で終わる恋愛劇

爆竹の音で振り返った麦は、朝子と目が合い、キスをする。こうして始まった2人の恋は唐突に終わりを告げ、朝子は麦とよく似た亮平と出会い直す。最後、それぞれに別々の方向を見つめる恋人たちを映したこの映画は、果たして視線の交わりのドラマか、その逆なのか?

『きみの鳥はうたえる』

恋愛

流れるように視線が変化し続ける、3人の青春劇

恋の始まりは視線というより接触だったが、そこから始まる男2人と女1人の青春劇の中で、それぞれの視線が流れるように変化していくことに感動する。正面から向き合うことから逃げ続けてきた「僕」がついに真っすぐ佐知子を見つめるラストシーンがとにかく最高。

『幸福なラザロ』

人情

残酷な現実を照らす、慈愛に満ちた聖なるまなざし

イタリア山間部の小さな村。領主の侯爵夫人に騙され長年労働を搾取されてきた村人たちは、真実を知り都市へと移るが、生活はより悲惨さを増す。そんな残酷な現実を、聖なる愚者ラザロはじっと見つめている。その慈愛に満ちたまなざしの中に、私たちは何を見出すのか。

『燃ゆる女の肖像』

恋愛

視線をめぐる不均衡な関係を反転させた愛の物語

見る者と見られる者。芸術家とモデルの間にあるとされてきた不均衡な視線の構造を、セリーヌ・シアマは見事に反転してみせる。彼女を見ていたい、彼女に見つめ返されたいという2人の女たちの欲望が交わり、同等の視線を持つ恋人たちの物語が誕生する。