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湯山玲子×ヴィヴィアン佐藤×渥美喜子。「ラブコメ」を語る

チャラい、浅い、ワンパターン……など、映画好きほど、とかく下に見がちなラブコメ。20年くらい前の印象を引きずったまま、食わず嫌いでそんなことを言っているようなら、今すぐ現代のラブコメを観てほしい。多様な人間模様の描かれたラブコメは、人生の指南書だ!
初出:BRUTUS No.791『なにしろ映画好きなもので。』(2014年12月1日号)

photo: Manami Takahashi / text: Ikuko Hyodo

湯山玲子

私はもともと、ラブコメを下に見ていたところがあったんですよ。だってほら、出がゴダールだからさ(笑)。

ヴィヴィアン佐藤

私もそう(笑)。ラブコメはたくさん観ているのだけど一定のパターンがあるから、アクション映画を観る感覚と似ているというか……。

湯山

だけど、海外出張の飛行機の中で『キューティ・ブロンド』を観て、これはバカにできないなと思ったんだよね。ガチのマーケティング感覚が入っていて、女性のリアルな立ち位置がよくわかるんですよ。

渥美喜子

私は、『SEX AND THE CITY(以下SATC)』を20代後半に観直して、同世代の恋愛映画としてめっちゃ面白いと思ったんです。10代の頃に観ていたラブコメといえば、ジュリア・ロバーツ(*1)とかメグ・ライアンが、とにかく結婚相手を探すような話がほとんどだったから、結婚がゴールじゃないのがよかった。

佐藤

今は恋愛に対する女性の考え方や、ハッピーエンドの意味がだいぶ変わってきている。そういう意味でも『SATC』は大きいのでしょうね。

『アナと雪の女王』は『SATC』後の集大成⁉

湯山

『メリーに首ったけ』(*2)は、『サタデー・ナイト・ライブ』(*3)だと思うの。下ネタが激しすぎて、欧米の男女関係は肉食なんだってことを思い知らされる。だけど、どんなにイケてない男も二次元に走らず、リアルな女性に相手にしてもらうために努力するところが偉いんだよね。アメリカのラブコメが好きになると、日本の男性と付き合えなくなる気がするんだけど、どう?

下ネタてんこ盛り、だけど意外に深い物語。『メリーに首ったけ』('98米/監督:ボビー&ピーター・ファレリー)/ラブコメ好き以外にもファンの多い、コメディの傑作。「メリーは性格がよくてモテるのに、奇跡的に独身だったような子なんだけど、“男なんていなくてもバイブがあればいいわ”なんてことを男にサラリと言ってしまう、その感覚がすごくいいんです」(湯山)

渥美

映画の中の夢物語と思って、諦めるしかないですね。

湯山

女からプライドをつぶされるくらい強烈な肘鉄を食らっても、彼らはへこたれないんですよ。だから男にとっては修行の映画だと思う。

佐藤

まさに「狩猟」と「修行」の映画よね。いずれにせよ、男も女も成長するところが、観ていて気持ちがいいわ。

渥美

昨日観た『マンハッタン恋愛セラピー』(*4)がすごい映画だったんです。共依存と言われている仲のいい兄妹がいるんだけど、妹が兄の恋人を好きになって、自分はレズビアンだと覚醒するんです。

佐藤

すごくいいじゃない!

湯山

やっぱり職業にしても立場にしても、女性の描き方にバリエーションがあるからいいんでしょうね。日本のドラマに出てくる女性は極端な話、OLか女医などの専門職か主婦かキャバクラ嬢くらい。女性のバリエーションが狭すぎるから、リアルなドラマが作れないんだと思う。本当ならレズビアンが出てきてもおかしくないのに。

渥美

日本でそういう映画を作るのは、かなり難しそう。

湯山

あと、役者がうまくないとラブコメはもたない。

渥美

そう思います!身体能力も重要だと思うし。

湯山

映画ファンはラブコメの演技を観た方がいいと思う。私は男だとアシュトン・カッチャー(*5)の大ファンなんだけど、彼は自己プレゼンがうまくて、最近どんどん演技派にシフトしてますよね。女性なら、アン・ハサウェイはやっぱりうまい。ただの美形じゃない。

渥美

『ラブ&ドラッグ』(*6)は素晴らしいですよね。

役者の演技力はラブコメで問われる!『ラブ&ドラッグ』('10米/監督:エドワード・ズウィック)/闘病モノはお涙ちょうだいになりがちだけど、ゲラゲラ笑って泣ける不思議な映画。感情の揺さぶりに無理なくついていけるのは、アン・ハサウェイとジェイク・ギレンホールの演技の賜物だ。「病気っていうテーマがいい例だけど、タブーの描き方が上手」(佐藤)

湯山

セックスフレンドから始まる関係なんだけど、純愛に変わるあたりで彼女の病気が深刻になっていく話ですよね。

渥美

男はバイアグラのセールスマンで下ネタ満載なのに、途中からめっちゃ泣けてしまう。

湯山

アン・ハサウェイが強がりを言う感じもまたいいの。セックスをエンジョイしている子が、実は病気を抱えているっていうのが泣けるんだよね。

佐藤

キャラクターの描き方に振り幅や奥行きがあるのが、リアルでいいのでしょうね。

湯山

そうなの。演技もそうなんだけど、脚本も素晴らしいってことなんですよ、いいラブコメは。だけどこれからの少子高齢化社会に向けて、熟年ラブコメも求められてきそうだよね。

渥美

メリル・ストリープの『恋するベーカリー』(*7)とかいいと思う。

迫り来る高齢化社会に、熟年ラブコメはマスト⁉『恋するベーカリー 別れた夫と恋愛する場合』('09米/監督:ナンシー・マイヤーズ)/大女優メリル・ストリープがバリバリの現役感で頑張っている、女性に勇気を与える作品。「同世代の友達が集まって、ダンナの文句を言ったり、下品なガールズトークをしている感じが、めっちゃ楽しいです」(渥美)

湯山

彼女が恋愛のプレーヤーを演じてるの?

渥美

そうなんです。離婚した夫と再会して、元夫には若い嫁がいるんだけど、モーションかけられてうっかりやっちゃったみたいな。

湯山

うわー、頑張ってる!

佐藤

今まで出てきたのはどれも一般的な話じゃないというか、固有の恋愛って感じがするからいいのでしょうね。人間関係ってすべて固有なわけだし。

湯山

人間関係の多様性が好きな人は、ラブコメにハマると思う。小説とかドラマが好きな文化系男性は観るべきですよ。

佐藤

ただ、ラブコメは邦題がちょっと厳しいわね……。

渥美

いかにもおバカ映画みたいな雰囲気になってるのが残念。あと結婚がゴールではないっていう意識が一般化した『SATC』の影響の集大成が、『アナと雪の女王』のような気がするんです。

湯山

私もそう思う!

渥美

だってあれも王子様はいらないって話じゃないですか。

湯山

“レリゴー”(*8)が愛の歌だとばかり思っていたら、開き直りの歌だったからね。

佐藤

私のための映画だと思ったもの!自分を知って、どうプレゼンするかという映画だから、ラブコメと一緒なのよね。

作家・湯山玲子、美術家・ヴィヴィアン佐藤、映画ブロガー・渥美喜子