1832年の創業以来、スイスの同じ土地にある〈ロンジン〉本社には、ミュージアムが併設されている。そこでは、世界初のクロノグラフ腕時計、飛行家リンドバーグ考案の航空時計、スポーツ計時用に開発された電子機器など〈ロンジン〉による技術革新の歴史を目の当たりにできる。と同時に、デザイン面においても、現在に続くスタンダードがいくつも見つけられる。
〈ロンジン〉はこれまで、豊富なアーカイブの大河から代表的なタイムピースをすくい上げ、現代に蘇らせてきた。それは単なる懐古趣味では、決してない。最新技術を駆使し、またディテールを精査した、新たなスタンダードの創出にほかならないのだ。
上の「コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ」は、1959年モデルを規範とした最新作である。最大の特徴は、ダイヤル中央のディスクとリングとでゼンマイの巻き上げ残量を示すパワーリザーブ計。身に着けている間、ディスクとリングの位置が常に少しずつ変化してダイヤルを表情豊かにするこの機構も、〈ロンジン〉を代表する発明の一つだ。
柔らかなふくらみを持つボンベダイヤル、その外周近くに刻んだ二重の溝、スカイスクレーパー(超高層ビル)型の針、植字のバーインデックス、12時位置の日付表示は、どれも1959年製モデルからの引用である。いかにもレトロな印象であるが、ケースを拡大することでモダナイズし、ダイヤルもカーブを強めて奥行き感を強調。日付窓は、縦長に改められてバーインデックスとの調和が図られた。そのインデックスは内側へのファセットカットを追加し、時分針も中央部を山なりに設(しつら)え直し、立体的な造形美へと生まれ変わらせている。〈ロンジン〉いわく、これは59年製モデルの復刻ではなく、オマージュ。すべてのディテールを現代的に再解釈しているから、上質なヴィンテージ感と新鮮さとが両立する。
また〈ロンジン〉の豊富なアーカイブの中には、他社も多用するトラディショナルなディテールの独自解釈が、いくつも存在する。その代表例が、下の「ロンジン マスターコレクション」のインデックス。
ブレゲ数字の名で知られる流麗な筆致のアラビア数字を、ダイヤルに直接彫り込んでいるのだ。これは、19世紀に〈ロンジン〉が製作した懐中時計に見られる技法。すべての数字は、工作機械で一文字ずつ彫刻され、およそ80分かけてようやく完成する。マットなダイヤルと、インデックスの彫り跡の煌めきとのコントラストが実に美しい。
自身のヘリテージも時計界の古典も、おのおのの細部にわたって独自に再解釈した腕時計。それは“かっこいい大人”のスタンダードなファッションを考えるとき、スタイルを象徴するキーとなる一本でもある。