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スタイリスト・喜多尾祥之に聞く、リネンの楽しみ方

素材の風合いと独特な肌触りが魅力の麻は、高温多湿な日本の春夏にかけて活躍する素材だ。着るごとに育ち味わいを増すリネンの楽しみ方を、スタイリスト・喜多尾祥之に聞いた。

photo: Hiromichi Uchida

リネンは自分の手で育てるもの

僕はリネンを「アジアの服」と呼んでもいいと思うほど、日本人にぴったりな素材だと考えています。昔から着物の素材としても使われてきて馴染みがあるし、その機能性が何より日本の気候に合っている。言わずもがな、リネンは吸水性と速乾性に優れていて、高温多湿な夏を乗り越えるためにも、スタイルに取り入れるべき天然の機能素材です。そのうえで気にすべきポイントがいくつかあります。

まずは、リネンは「シワを楽しむ」ということ。日本人は服のシワを嫌う傾向にありますが、リネンに入る自然なシワは美しい。だから僕は、買ってすぐには着ずに、よく揉み込んでから洗濯をするんです。それを繰り返すことで生地に表情が生まれて、シワが生地特有の味わいになる。

それゆえに、ほかの素材に比べて縮むことを考慮して、いつもより少し大きめのサイズを選ぶようにしています。この“揉み込み”は、白のリネンこそ入念にやってほしい。白のリネンは表情が出にくいので、くっしゃくしゃに丸めてから洗濯するくらいでいい塩梅。美しくシワの入った白いリネンシャツは、本当にかっこいい。涼しくてシワが気にならないから、春夏はスーツもリネンがおすすめです。僕も夏に〈コモリ〉のスーツを着て楽しんでいます。

それから、リネンは重ね着をして楽しむものだと僕は考えています。生地自体はタフなのですが、どこか繊細な印象もあるから、空気を含んでいそうな素材のものと相性抜群。

薄手の素材をレイヤードすることで微妙な気温の変化にも対応でき、僕の場合、7月中旬くらいまでは〈モンベル〉の極薄のメリノウールのインナーTシャツにリネンのシャツジャケットくらいがちょうどいいんです。ジトッとした多湿な時期でも、リネンのアウターならストレスフリーで着られます。シャツももちろんいいのですが、僕はリネンこそアウターを勧めたい。

そんなリネンのアウターの中でも、麻袋のようなタフで地厚なリネンを着こなせたらかっこいいなと思うんです。レザージャケットを手なずける、みたいな感覚で、じっくり自分の肌に馴染ませていきたいですね。

それから、リネン本来のベージュのようなナチュラルな色味を楽しむというのもいい。自然な風合いのリネンに、対照的な赤色などを差してコーディネートするのも粋ですね。

そして、アジア特有の熱帯夜だって、リネンのパジャマで乗り切れます。その上からシルクのガウンのような少しエレガントな上着を羽織れば、たちまち粋なご近所着にも。近年のうだるような猛暑日には、「快適でいられるかどうか」が最重要課題になりますよね。機能的でありながらファッション的要素も兼ね備えたリネンこそ、日本の夏を楽しく快適に過ごすために必要な素材だと思うんです。

〈コモリ〉と〈サルヴァトーレ ピッコロ〉がコラボしたシャツジャケット
2023年春夏シーズンに、〈コモリ〉と〈サルヴァトーレ ピッコロ〉がコラボしたシャツジャケット。「地厚なリネン素材だから洗っても縮まず、ヘビーデューティに着ています。気温の変化にも対応できるよう、メリノウールのTシャツを合わせます」。