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細野晴臣プロデュースで1977年に制作された幻のアルバムが発売!

リンダ・キャリエールの唯一のアルバム『Linda Carriere』が制作から47年の時を経て、遂に公式にリリースされた。1977年に細野晴臣がプロデュースし、アルファレコードから発売される予定だったこのアルバムは、同年4月にレコーディングを終え、ラフミックス段階でアナログ盤のテストプレスが関係者に配られるまで行っていながらお蔵入りとなった幻の作品なのだ。

text : Motohiro Makaino

あの時代の音が、ついにリリース

『Linda Carriere』収録の「Socrates」

もともと、作曲家でありアルファミュージックの創設者でもある村井邦彦が、細野晴臣にプロデューサー契約を持ちかけ、日本人が楽曲を制作し海外のシンガーをプロデュース、世界発売するという企画であった。

村井はアルファ設立当初から海外戦略を視野に入れており、ふさわしいシンガーを探していたところ、ルイジアナ生まれのクレオール・シンガー、リンダと出会う。ちょうど細野が『トロピカル・ダンディー』(75年)、『泰安洋行』(76年)といった無国籍エキゾティックサウンドを発表し、ニューオーリンズの音楽に興味を示していた時期でもあり、2人はリンダを気に入り、白羽の矢を立てた。

作家陣には細野をはじめ山下達郎、矢野顕子、吉田美奈子、佐藤博らを起用。演奏は林立夫、鈴木茂、浜口茂外也らティン・パン・アレー系をはじめ、村上“ポンタ”秀一、松木恒秀、大村憲司、坂本龍一、向井滋春、伊集加代子らが参加。

各楽曲は、細野が傾倒していたワールドミュージック系はもとより、現在言われるシティポップに通じる音作りがなされ、海外でも通用する日本のポップスが、リンダの英語によって展開されている。

本作がお蔵入りになった結果、多くの楽曲がリメイクされているのもよく知られるところ。山下達郎作の「Love Celebration」は77年の笠井紀美子『TOKYO SPECIAL』で安井かずみの日本語詞により「バイブレイション」に、さらに山下自身も元の英語詞でアルバム『GO AHEAD!』でセルフカバー。

「Proud Soul」は作者・吉田美奈子が「猫」の題で78年の『愛は思うまま』に、佐藤博の「Vertigo」も自身の82年作『awakening』に「It Isn't Easy」として収録された。矢野顕子作の「Laid Back Mad Or Mellow」は、やはり笠井の「待ってて」に生まれ変わっているもよう。

当時、お蔵入りの理由として、リンダのボーカルの弱さが挙げられた。ソウルフルに歌い上げる歌唱ではなく、曲によっては単調な印象も受けるものの、クールで端正な歌声は細野作品との相性も良く、今聴くとむしろポップな印象を受ける。

その後、リンダは男女混成のディスコファンク・グループ、ダイナスティに参加。プロジェクトが頓挫した細野は、村井に次は何をするかと問われ「イエロー・マジックをやる」と答え、これがYMOの結成に繫がっていく。本作を聴くことによって、70年代ポップシーンのパズルの、最後の1ピースがぴたりとはまるのだ。