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「世界の歌姫になっていたかも」俳優、舞台演出家・錦織一清が語る、テレサ・テンの魅力

音楽に夢中になるきっかけはいつだって、テレビの中でスポットライトを浴びながら歌うスターたちだった。その輝きはいつまでも色褪せない。俳優、演出家の錦織一清にとっての歌謡曲レジェンド、テレサ・テンについて。

Illustration: Naoki Ando / Text: Shu Shimoigusa

一つのフレーズで、その情景や人物を
イメージさせる、圧倒的な表現力

十数年前にワンボックスカーを買ったのを機に、僕は、仕事で遠くに出かける際も自分の運転で移動するようになったんです。

その車中でよく聴いていたのが、昔から好きだったテレサ・テンのベスト盤。雨のそぼ降る深夜に彼女の歌声を聴きながら高速を走っていると、長距離トラックのドライバーになった気分に浸ることができました(笑)。

ある日、車に同乗した演劇プロデューサーがその熱いテレサ愛を知ったことをきっかけに、僕はあるミュージカルの演出を手がけることになりました。

それが、2012年に三越劇場で上演された『恋人たちの神話』。作詞家の荒木とよひささんが作・監修を務めたこの作品は、テレサに憧れた不遇な女性歌手の一生をオムニバス形式で描いたもの。劇中では、中国出身の女性歌手・エンレイがヒロインを演じ、「時の流れに身をまかせ」などのテレサの名曲を熱唱しました。

バブル真っ盛りだった20代の頃は、年上の先輩たちにバーやクラブに連れていっていただく機会が非常に多かったんですが、その場のカラオケで決まって選曲されるのが、テレサ・テンのナンバー。彼女のレパートリーに関しては、本人以上にほかのおじさんの歌唱を聴いた回数の方が多いかもしれない(笑)。

40歳を越えたあたりから、その歌詞の行間に込められた微妙なニュアンスがようやく理解できるようになってきました。「つぐない」を例に挙げれば、「窓に西陽があたる部屋」に住んでいると耳にしただけで、彼女がどんな仕事に就きどんな生活を送ってきたか、想像が広がっていく。

あの頃のシングルの尺はせいぜい3分から4分だったけど、その限られた時間の中に、濃密な物語が凝縮されているんです。

母国語ではない日本語で歌っているからかもしれませんが、テレサの歌声からは、男性に甘える印象を覚える。男性の隣にちょこんと座り、肩のあたりにペタッと触ってしなだれかかる、そんな女性の姿が目に浮かぶんです。

しかし、テレサの曲のヒロイン像に触れるたび思うけれど、男にとって、あれほど都合のいい女っていませんよね。そのくせ、ほったらかしにしてたらどこかに行っちゃうんじゃないかと不安にさせる。もしも、自分が所帯を持っていたとしても、週末は彼女の家に通っちゃうなあ(笑)。

作詞・荒木とよひさ、作曲・三木たかしというゴールデンコンビの作る楽曲は、どれも垢抜けています。テレサの曲をはじめ、ハイカラだなと思わせる昭和歌謡って、リズムにラテンの要素が入ってることが多い。実を言うと、少年隊のデビュー曲「仮面舞踏会」も、マイナーサンバと呼ばれるタイプの楽曲なんですよね。

有名な荒木・三木作品以外にも、テレサの持ち歌には、知られざるいい曲がたくさんあるんですよ。

中国のスタンダードをカバーした「夜來香」「何日君再來」もいい。同じアジアの民族として、シンパシーを覚えます。「空港」「ふるさとはどこですか」といった初期の楽曲だって最高。

テレサ・テンさんが亡くなったのは1995年のこと。まだ42歳の若さでした。まだ存命だったらどんな歌を歌っていたのか、時々想像することがあります。

アジアを股にかけて大活躍した彼女だもの、ひょっとすると、今のBTSみたいな人気を得て、世界の歌姫になっていたかもしれませんね。

テレサ・テン
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Nikki’s Favorite

「つぐない」

台湾出身のテレサが、紆余曲折を経て日本での再デビューを果たした後のシングル。荒木とよひさ、三木たかしが生んだ「つぐない」「愛人」「時の流れに身をまかせ」の連作で、1984年から3年連続の日本有線大賞受賞という快挙を遂げる。