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「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」が開催中。10周年にアーヴィング・ペンや奈良原一高など、巨匠の写真が古都に集う

今年も京都で開催中の国際写真展「KYOTOGRAPHIE」。古都らしい景観で、ギイ・ブルダン、アーヴィング・ペン、奈良原一高など、錚々たる写真家の作品を展示する。第10回とあって、思い入れもひとしおだという、代表・仲西祐介の言葉とともに見どころを紹介したい。

text: Momoko Suzuki

今年も「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」が始まった。文化財や寺を舞台に、京都市内のあらゆる場所が展示会場となる国際写真展も第10回。今年のテーマ「ONE」は、仏教用語「一即(すなわち)十」から着想を得たという。あらゆるものがひとつに繋がって関わり合って存在しているということを意味し、このテーマ通り、個性豊かな国内外の写真家の作品が一堂に会する。

出町桝形商店街にプリンス・ジャスィの写真
アフリカ生まれのアーティストの作品が昔ながらの商店街を彩る。プリンス・ジャスィ「いろいろ アクラ──キョウト」(出町桝形商店街)©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

アーヴィング・ペンの展示は、
移動式スタジオに見立てて

まず、目玉となるのがポートレートの巨匠アーヴィング・ペンの展示だ。京都市美術館別館に展示される80点のオリジナルプリントはヨーロッパ写真美術館所蔵より借用したもので、通常はパリに飛ばないと見ることができない。

特にマイルス・デイヴィスの4点の写真は、今回、初めて世に出るという貴重なもの。この展示のために作品を空路で運ぶことを許諾されていたものの、世界情勢が影響し、会期前日まで届かないという緊急事態に見舞われたという。

「現在は、フランス国外に作品を持ち出すことができなくなりました。ギリギリのタイミングで許可が出ていたものの、通常の空路は使えないためドバイ経由で運ぶことに。しかし途中で手続きの証明書が剥がれてしまい、日本に届いたものの空港から出せなかったんです。展示空間をつくって、空っぽで作品を待っていました」と、代表の仲西祐介さんは話す。

アーヴィング・ペン展エントランス
「アーヴィング・ペン」展(京都市美術館 別館) Irving Penn: Works 1939–2007. Masterpieces from the MEP Collection Presented by DIOR From the collection of MEP, Paris (Maison Européenne de la Photographie) in collaboration with The Irving Penn Foundation ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

そうして長い旅路を経て届いた作品は、静物、世界各国の小部族、ファッション、ヌード、ストリート、ポートレート、花など、ペンの人生を総括する珠玉のラインナップとなっている。パブロ・ピカソやル・コルビュジエなど、錚々たる芸術家たちのポートレートが並ぶが、なかでもペンの伝説的な構図を見て取れるのがマルセル・デュシャンのポートレートだ。

グレーの壁を鋭角に立て込んだシンプルな背景に被写体を配置する独自の構図。自然光を巧みに取り入れ、白い布を使ってテントのような移動式スタジオをつくり込んだという。今回の展示空間はそんなペンの撮影セットを再現したもので、大阪の中之島美術館の設計も担当した遠藤克彦建築研究所が手がけている。ペンが被写体の個性を引き出すためにつくり上げた撮影の舞台裏まで体感できるのがユニーク。

また、晩年のプラチナ・パラジウム・プリントも見どころだ。モード誌で活躍しながら、雑誌の色の出方に不満を持ち、この手法に立ち返ったという。雑誌に携わるものとして胸を突き刺される気持ちだったが、その手焼きの写真の力強さにはどんなに技術が進化しても追随できないと感じた。

「携帯電話ですぐに写真が撮れてしまう現代だからこそ、自然光のきめ細かい光でグラデーションをつくる、彼本人が焼いたプリントの強さを感じられると思います」(仲西さん)。ニューヨークの道に落ちていたタバコの吸い殻や靴の裏についたチューインガム、拾った手袋など、何気ないものをアートに昇華させたペン。いまにも動き出しそうなゴリラの頭蓋骨の奥行きにも目を見張る。写真の新たな可能性を探り続けたペンの美学を感じられるはずだ。

アーヴィング・ペン 静物写真
晩年の手焼きプリントは、タバコの吸い殻や手袋など、日常のありふれたものがモチーフ。©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

京都最古の禅寺で出合う、
奈良原一高の前衛的な美学

建仁寺・両足院では、一昨年逝去した写真家、奈良原一高の「禅」シリーズが展示されている。日本の芸術写真の先駆者である奈良原は、被写体をそのまま切り撮るのではなく、自分のイメージをもとに実験を重ねてビジュアルをつくり上げていった。KYOTOGRAPHIEをスタートさせた当初から、奈良原の展示は仲西さんの念願だったという。「自分の物の見方をあそこまで形にできる写真家はいません。ずっと声をかけられずにいたんですが、その間に亡くなられてしまった。10年目を迎える今回、ようやく実現しました」(仲西さん)。

両足院 建仁寺山内の奈良原一高展示
展示の横に回ると、空洞になっている什器から美しい庭が見通せる。奈良原一高「ジャパネスク〈禅〉」(両足院 建仁寺山内)Supported by LOEWE FOUNDATION  ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

「禅」をテーマにした写真だが、非常にアバンギャルドな世界観で撮られ、動の中の静を感じられる。「禅」の行いそのものではなく、「禅」に入る前の私たちの波立つ心が映し出されているようだ。敗戦後に西洋化する日本で、日本文化を否定する空気が強い中で育った奈良原は、ヨーロッパやアメリカに渡ったことで、逆に日本文化のおもしろさを見出した。

これらの作品は、奈良原が日本文化の本質を見直そうと撮った「ジャパネスク」シリーズのひとつだ。京都最古の禅寺というこのシリーズを鑑賞するのにこれ以上ないロケーションで、日本文化の奥深さまで感じられるはずだ。

奈良原一高「禅」
「禅」をテーマにした前衛的な世界観。撮影:鈴木桃子

写真を織り込んだ帯は、
京の職人による手仕事の結晶

同様に古都らしい景観で展開されるのが、スペイン人写真家イサベル・ムニョスが、ダンサーの田中泯と誉田屋源兵衛当主の山口源兵衛を撮影した展示だ。2017年のKYOTOGRAPHIEで初来日を果たしたイサベルは、山口源兵衛が見せたミュージアムピースのような帯に感動し、それから日本文化をテーマに作品を制作し続けてきた。

今回の撮影は、誉田屋源兵衛の工房がある奄美大島で行われたもの。泥に濡れた山口源兵衛の写真は力強く、海中で田中泯が踊る様子は神秘的で、奄美大島の手つかずの自然に秘められた生命力が伝わってくる。撮影のコーディネートをした仲西さんは、「源兵衛さんはジャングルの中の泥田に沈んだのですが、泥がひび割れて痛いし、濡れた泥で全身を覆われているから寒い。励ましながら、霧吹きで水をかけながら撮影しました(笑)」と、ハードな撮影舞台裏を語ってくれた。

また、この写真をイサベルがプラチナプリントに焼き、それを裁断し、糸に紡ぎ織り上げた山口源兵衛作の3本の帯も初公開する。なかでも、山口源兵衛の後頭部の写真を黒漆で塗った糸とともに織り込んだ帯は、強く艶やかでロックな気配まで漂う唯一無二のアートピースだ。

「源兵衛さんに、何百年もかけて酸化してムラになった銀箔を和紙に貼って、細かく糸に裁断して織ったものを見せてもらったんです。ムラが見事に再現されていて、写真の細かい描写も織れるのではないかと、今回の企画に至りました」(仲西さん)。京都の職人たちも高齢化し、こういった高い技術が失われ始めている。イサベルのようにプラチナプリントができる写真家も少なくなりつつあるいま、この作品は現代の手仕事の結晶ともいえるだろう。

写真プリントを糸状に割いて、折り上げた帯。
山口源兵衛の後頭部を映し出した写真のプリントを裁断し、糸にして織り上げた帯。撮影:鈴木桃子

ほか、昨秋にシャネル・ネクサス・ホールで開催されたギイ・ブルダンの巡回展も見逃せない。重要文化財の京都文化博物館別館という名建築の中で、構造物が螺旋状に置かれた空間が、その艶やかでシュールな世界観を引き立てている。

HOSOO GALLERYの「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」では、これからの活躍が期待される10人の日本人女性写真家(地蔵ゆかり、林典子、細倉真弓、稲岡亜里子、岩根愛、岡部桃、清水はるみ、鈴木麻弓、殿村任香、𠮷田多麻希)にフォーカス。

朝鮮人と結婚し、半世紀以上北朝鮮に暮らす日本人妻を記録する林典子。本展に加えSferaで開催中のアソシエイテッドプログラムでは癌と闘う女性のポートレートを展示し、4月9日にサイレントデモも行った殿村任香。体外受精で妊娠した自身の経験を残した岡部桃など、社会と対峙する作家たちの強いメッセージ性に富んだ作品を展示する。それぞれ作風は異なるものの、いまを生きる私たちの心に痛いくらい刺さるはずだ。

サテライトイベントのKG+にも注目したい。あらゆるセクシャリティの人たちを撮影した西村楓。認知症患者の見ている景色を追い、社会との繋がりが薬になることを訴える松村和彦。子育て後の空の巣症候群に苦しんだ自己体験のもと、セルフポートレートで母と子の関係を見つめ直した飯田夏生実。社会的な視点を持った個性豊かな写真家たちが揃い、新たな価値観や世の中の見方を知ることができる場となるだろう。

「KYOTOGRAPHIEを立ち上げたのは、2011年の東日本大震災の後で、何かやらなくてはいけないと使命感を持ったことからでした。第10回を迎えられたのは奇跡的で、たくさんの人に支援してもらって続けてくることができたことに感謝しています。

この10年、日本で暮らしている私たちの意識は大きく変わりましたが、環境や社会問題はまだまだ山積みであり、向き合っていかなければなりません。アートフェスティバルは社会に向けて何ができるか。これからも、社会や環境をより良くしていくきっかけをつくっていきたいと思います」と、仲西さんは10年目を迎えた感慨を語ってくれた。

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」は5月8日まで開催予定だ。より良い社会と環境づくりに向けて歩み続ける国際写真展を堪能してほしい。