京都には「会館」なる酒場の集合体があるのをご存じか。立命館大学教授、加藤政洋著『酒場の京都学』(ミネルヴァ書房)によると、2019年4月末時点で、京都市中心部にある会館は60軒以上。例外はあるが、商家や住宅に使われてきた低層の木造家屋がベースになっているという。
なるほど、通路を共有する小部屋が一つ屋根の下に集まる下宿にも似た造りの裏には、このような建築的背景があるというわけだ。なお、トイレも共同という会館も少なくない。
なかでも代表格とされるのが、阪急西院駅裏手の〈折鶴会館〉、四条富小路上ルの〈四富会館〉、京都タワーの麓にある〈リド飲食街〉の三大会館。増改築という、なんともフリースタイルなスクラップアンドビルド。夕刻を過ぎるとますます存在感を増す異形の佇まいは、京町家同様に残す価値のある街の遺産といってもいいんじゃないだろうか。
会館は路地のような通路の奥行きと比例するかのように店のディープさも増す(ように思う)。酔いに任せて会館というダンジョンの深部にダイブするのもいいけれど、初心者の方は手始めに入口付近の店から攻略してみることをオススメしたい。
例えば、立ち飲み屋が多い〈折鶴会館〉なら老若男女に愛されるセンベロ酒場の〈才〉、ジャンルも多彩で女性一人でも入りやすい〈四富会館〉は国産ワインバーの〈たすく〉、シブ好みの〈リド飲食街〉は無国籍料理の〈じじばば〉といった具合。
これらの店は旅行客も多く、最初の手合わせには持ってこいのお相手。緊張がほぐれたら、後は部屋から部屋へ。気の向くままに扉を開けるだけだ。
類は友を呼ぶのか、キャラクターは会館ごとに異なる。先に紹介した会館以外では、ニッチな店が集まる〈たかせ会館〉、女主人ばかりの〈美松会館〉、令和のニューカマー〈西院会館〉などなど。会館によって色は違えど、共通しているのはカウンター10席にも満たない店が大半で、そこにはもてなし上手の店主がいるということ。京都の裏名物、“会館飲み”。まずは一度、体験してみてほしい。