型破りな〈コクヨ〉のオファーに、映画監督たちはどう応えたのか
3人の監督が「好奇心」をテーマに描く短編映画プロジェクト「The Curiosity Films」。自分の出身国ではない国で、その国の俳優たちと撮影するという試みも興味深いが、驚いたことに商品をフィーチャーするなどの条件は一切なかったという。監督たちは、いったいどんな“好奇心”を持ってプロジェクトに臨んだのか。
──今回のプロジェクトをどう捉えましたか?
デレク・ツァン
私は香港出身ですが、香港でもコクヨは有名ですし、「キャンパスノート」にも親しみがあります。今回は自国以外で撮影する多文化共生のプロジェクトであるということに好奇心を覚えました。何より憧れの岩井監督と一緒に参加できたことはとても光栄です。
岩井俊二
もともとデレクとは知り合いなんです。僕が以前中国で撮影した『チィファの手紙』という映画のプロデューサーをしてくれたピーター・チャンのチームにいたんだよね。
デレク
はい、私がこの業界に入って初めてスタッフとしてついたのがピーター・チャン監督でした。彼は私にとってメンターのような存在ですが、岩井さんもずっと目標にしてきた監督です。
岩井
僕は好奇心の塊のような人間で、今も好奇心でいっぱいですが、今回の作品はもっと好奇心旺盛だった20代のときに書いたものが基になっています。そんな若い頃の自分と向き合うような作品になりました。
デレク
とても美しい作品でした。岩井さんが見た中国の風景は、私たちが見るのとはまた違うものなのだと思います。岩井さんの美的センスが表れた作品です。
岩井
実はラストシーンの衣装は『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』に近いものを探したんです。結果的に女の子は白いブラウスを上に着ているのがいい感じだったのでそうしましたが、あれがないと『打ち上げ花火~』と同じなんです。
デレク
岩井さんのファンとしては、過去の作品へのオマージュとなっているような作品が観られてうれしかったです。
文化が異なる環境でのクリエイティブな経験

岩井
今回は子供たちとのコミュニケーションもうまくとれたりして、リラックスして撮りました。アメリカでの撮影はどうでした?
デレク
英語でのコミュニケーションは問題ありませんでした。ただ、アメリカでの撮影は初めてだったのでいろいろな違いがありました。例えば、労働組合のルールがあるので雷が鳴ったら30分間撮影を止めなくちゃいけないんです。
岩井
待機中にまた鳴ったら?
デレク
「また鳴った!」と2時間もストップしました(笑)。
岩井
とても面白い作品でしたね。難しいアイデアだけどわかりやすくて、オチも最高。主人公はスティーヴン・キングみたいな作家だけど、モデルはいたの?
デレク
フィクションとして描きましたが、キングはたしかにモデルの一人です。作家がよく陥るクリエイティブブロック、つまり何かを生み出さなくてはというプレッシャーは私にも経験があります。
岩井
キングを主人公にして2時間の映画にできると思いました。
デレク
それは面白そうですね。
岩井
デレクの作品もシュチさんの作品も、不思議と身近に感じることができたのがうれしかったです。2人の作品からいろいろなヒントをもらった気がします。カバンがいっぱいになったような。
デレク
私はクリエイターとして成長するために、常に新しい経験を求めているので、今回のような経験はとても貴重なものでした。
岩井
商品は出てこなくてもブランドとのコラボレーションで作品を作る機会は、海外では多いし、日本でももっとこういう機会が増えるといいですよね。コクヨさんの勇気あるプロジェクトだと思いますし、お互いが勇気を持って新しいものを作れたら。
デレク
今回、私がこのプロジェクトに参加したいと即答した理由は、コクヨさんが私たちにほとんど制約なしで自由に脚本を書かせてくれたから。その結果、好奇心にはいろいろな形があるということを証明できたと思います。
岩井
まさに、キャンパスノートのように自由にね。
〈コクヨ〉が作った3本の映画

ある日、クラスメートの藍夏(ランシャ)が、親の事情で海風(ハイフン)の家に泊まることに。2人のぎこちない時間を、世界地図のパズルが埋めていく。翌朝、部屋に藍夏の姿が見当たらず、海へと自転車を走らせる海風だったが……。『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を彷彿とさせる少年少女の物語を、中国福建省を舞台に撮影。出演:ワン・ペイシー、マ・イルイ、リー・モン。

人気作家ブライアンの朗読会に集まった人たち。鋭い質問を投げかける、どこか見覚えのある彼らは、なんとブライアンの小説の登場人物だった……!登場人物たちが作家を問い詰めるというユニークな発想を基に、創作の本質に迫る。香港生まれでカナダで育ち、俳優エリック・ツァンを父に持つデレク・ツァンが、初めてアメリカのスタッフ、キャストと撮った一本。出演:レックス・ストライプほか。

哲学者の妻と宇宙物理学者の夫。冷ややかな関係に見える夫婦が、魅惑的な舞踊家マコの引退公演を観に行き、それぞれが彼女と出会うことで、言い知れない感情が芽生えていく。インド出身でAFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)で学び、現在もアメリカを拠点に活動する監督シュチ・タラティが、日本を舞台に繊細なドラマを描き出す。出演:北村一輝、サミヤ・ムンタズ、原田美枝子。