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それぞれの“孤独のグルメ” 第3回:笠島徳竜(プロデューサー)

『孤独のグルメ』は究極のリアリティドラマだ。主⼈公・井之頭五郎はもちろん。キャストやスタッフの⾷体験、現実に存在するお店やメニューはそのままドラマに刻み込まれる。2025年1月10日に公開する『劇映画 孤独のグルメ』に先駆け、特別編『それぞれの孤独のグルメ』の放送と配信を記念して、タイトルそのままにお話を聞いた、全7回の短期集中連載。第3回は番組プロデューサーの笠島徳竜。

text: Atsunori Takeda

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『それぞれの孤独のグルメ』において、はじめて正式に「チーム孤独」入りしたプロデューサーの笠島徳竜。それゆえ今回の登場に際しては、スタッフ内から「なぜお前が⁉」「10年早い!」などの声も挙がったという。だが当連載においてはそれが狙いでもあるのだ。「孤独」に漬かりきっていない制作者の目に、このドラマはどのように映るのか。“新参”Pにとっての『孤独のグルメ』とは。

食事を待つ松重豊

今作で『孤独のグルメ』に初参加

僕は7年ほど前に共同テレビジョンに入り、第3制作部に配属になりました。共同テレビジョンには第1〜第3制作部があり、第1がドラマ、第2がバラエティー、第3がその他のコンテンツをつくっているのですが、『孤独のグルメ』のチームがあるのは第3制作部。作品を立ち上げたプロデューサーの吉見健士さんも、脚本の田口佳宏さんもそもそもドラマ畑の人ではなくて、ドラマの本流ではないスタッフを集めてシリーズがスタートしたんです。

といいつつ、僕が『孤独』に関わるようになったのは、シーズン8の10〜12話。「行ってこい」といわれてやった“お手伝い”です。その後、シーズン9、10にはかかわらず、BSテレ東の『たそがれ優作』のラインプロデューサーを初めてやらせていただきました。問題なく作品を収めることができ、吉見さんに認めていただき、今作のプロデューサーをやらせていただくことになりました。

『孤独のグルメ』の現場は、非常に異質なんですよ。みなさんおなじみですが、実店舗での撮影というスタイル。狭い店内での撮影はセットを組んだスタジオとはまったく違うリアリティがあります。そして、食事シーンの撮影方法。普通は同じ料理を何食も用意して繋ぎ合わせるのですが、『孤独のグルメ』では、一食を一発勝負で完食するまで撮るんです。

途中、カットを入れますが、同じ皿を食べかけの状態で続きから食べてもらうことになります。演者を待たせてはいけないという緊張感の中、スタッフ一同が連携して撮影を進めていました。

プロデューサーの吉見さん肝煎りの企画で、急遽スタートしたらしくて。普通ドラマだとスタッフ30人ぐらいいるのに、総勢10人以下だったのでえらく驚きましたが、アットホームな雰囲気に惹かれました。監督の溝口憲司さんは、撮影後すぐに飲みに行っちゃうような方で、「学校を卒業したらまた来たらいいじゃない」って声をかけてくれたのがうれしくて、シーズン2から本格的に関わり、シーズン6で監督デビューを果たすまで、このドラマは僕を育ててくれました。

撮影期間は毎年4~5カ月。それ以外の時期は他のドラマや映画の現場で経験を積んで、また『孤独』の現場に戻ってくるというサイクルを繰り返していました。通常の現場は明確に分業制なんですが、ロケ地探し、お弁当の手配、小道具や衣装の準備など、全業務をやる助監督、というよりはADのように働いていましたね。

それでドラマ制作の様々な側面を学ぶことができましたし、孤独らしさみたいなものも身についたんじゃないかと思います。僕自身ハマっていたのは、小道具作り。美術さんがいなかったので、店内に貼るためのポスターやメニューなんかを自作しました。スタッフの顔写真をコラージュした演歌歌手のキャンペーンのポスターとか、名前をもじった日本酒のラベルをつくってお伺いを立てると、溝口さんはえらく喜んでくれて。

『それぞれの孤独のグルメ』のつくり方

『それぞれの孤独のグルメ』の制作は、まず主人公の職業を決めることから始まります。松重さんをはじめ、田口さんや監督陣などで話し合い、例えば「看護師さんを入れたいよね」ってなれば、看護師の方と撮影場所のリサーチを行う。それが僕の各話における最初の仕事かなと思っています。

実際に看護師さんに取材をするんですが、今回必ず聞いていたのが「一人になるタイミング」「普段どういうものを食べてますか」という質問です。お話を聞いた看護師さんは、夜勤で救急救命に入ったりした翌朝は「絶対、焼き肉です!」と、まさに第3話を地で行くお答えだったんです。

そうやってヒアリングした内容をもとに大枠を考え、田口さんに脚本を進めていただく一方で、お店が「焼き肉」と決まるので、みんなでワーッと焼き肉屋さんのリサーチに取りかかるという。プロデューサーからADまでスタッフ全員にロケハンの権利がある、従来の『孤独』の制作スタイルですね。

笑顔の板谷由夏

取材交渉は「お店ファースト」の心を忘れず

お店探しにはグルメ系のサイトも参考にしますが、普段と違って、それほど点数は気にしません。おいしいのはもちろんですが、お店の雰囲気や店主のキャラクターに特徴があって、既視感がないことが重要。

ロケハンに行くのですが、評価軸は「孤独っぽいかどうか」という、曖昧な基準です。誰も明文化できないのですが、ベテランスタッフはお店に入った瞬間「ぽい」「ぽくない」の判断ができるようです。「古くて味がある」なら僕にもわかるんですが、そうじゃない新しいお店が「ぽい」こともあり、僕自身もまだその基準を完全に理解しているとは言えません。田口さんや監督の意見を尊重しながら、日々勉強中です。

今回、お店への取材交渉は僕がやることが多かったですね。電話ではなく直接、が『孤独』の不文律です。営業時間の終わり頃に伺って、ごはんをひと通り食べた後、他のお客さんがいなくなるのを見計らって切り出します。場合によっては2〜3回通って、お店の方とある程度仲良くなってからお願いすることもあります。

取材依頼の際、アフターケアにも心を配っています。ありがたいことにファンの“聖地巡礼”が一気に、ではなく長らく続くのが『孤独』の特徴なんですね。そうした露出後にお店が抱く不安要素と対策についても、最初からきちんとお話しするんです。十数年にわたって100軒以上のお店に登場いただいたからこそのノウハウが『孤独のグルメ』にはあります。

「孤独っぽいじゃん」と堂々いえるPに

『孤独のグルメ』は、僕にとって特別な存在です。視聴者として見ていた番組に、まさか自分がプロデューサーとして関わることになるとは夢にも思いませんでした。しかし、10年来の付き合いである他のスタッフに比べ、まだまだ新参者である僕は、チームの中心にいるという実感が湧きません。

正直に言うと、まだファンのような気持ちで番組に関わっている部分もあります。まだまだ学ぶことはたくさんありますが、プロデューサーとして活躍できるよう頑張っていくとともに、お店に入った瞬間に「お、孤独っぽいじゃん」と自信を持って判断できる力を身につけたいと思っています。

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