プレーヤーの視点に立ってものを作る。その立ち方にセンスが表れる
「たべっ子どうぶつ」のデフォルメセンスは秀逸だ。そう語るのは、グラフィックデザイナーの小林一毅さん。〈ミズノ〉との協業や、玩具をテーマにした巡回展『Play Time』など、人の五感や身体と地続きの形を追求し続けている。
「形だけでは何の動物かわかりづらいものも実は多い。でもだからこそ、子供が見たときに“何の形だろう、クマっぽい?”と想像をふくらませる入口になるんです。解像度の高さが求められる現代ですが、この絶妙に解像度の低いデフォルメが、想像力を育ててくれる。知育玩具の要素もあって、ビジネス的にも上手だと思います」
使う人の方を向いて作られたもの、すなわちプレーヤー視点に立っているものにセンスを感じると小林さんは言う。例えば毎日のように使うスケッチブック。
「〈月光荘〉のオリジナルは表紙が6色あり、紙厚やサイズの種類も多い。日々の制作がマンネリ化しそうだから表紙の色を替えて気分転換したいとか、持ち歩くのにもう少し軽ければとか、不便とまでは言えない小さな引っ掛かりへの答えが、ちゃんと用意されているんです。些細なことですが、案外そういう“さすが、わかってるな”という喜びが、リピートし続ける動機になっている気もします」
絵本にも、プレーヤー視点を感じる作品がある。それは1994年から続く『バムとケロ』シリーズ。物語を進めているのはメインキャラの2匹だが……。
「本筋とは関係ないモブキャラが、いろんなところに隠れていたり謎の行動をとっていたりする。子供って、そういう細かい部分を間違い探しのように楽しむんですよね。きっと作者自身が子供だったときの視点がちりばめられているのでしょう。さらには、モブキャラにもおのおのの生活があり、物語の本筋以外にも世界があることを、さりげなく示唆している。本当にセンスがいいなって思います」
そして、キャラクター設定に恐ろしいほどのセンスを感じるのは「すみっコぐらし」だと小林さん。
「例えば、トンカツの端っこやエビフライの尻尾といった、食べ残されてしまうものをモチーフにしたキャラ。それらは、自分に自信が持てず、弱さを抱える人たちに寄り添う存在として考えられているように見えるんです。と同時に、子供が無条件に親近感を抱く丸っこい造形も備えている。大人と子供では刺さるポイントが違うことを捉え、物語性と造形力の2軸で世の中に訴求する。大ヒットも納得のセンスだと思います」