祝・漫才協会会長、祝・初監督!
「ヤホー漫才」で注目を浴び、『M-1グランプリ』では3度、決勝進出した漫才コンビ、ナイツ。その頭脳である塙宣之はM-1で審査員を務め、2023年には漫才協会の会長に就任。今や東京漫才界の最重要人物である彼が映画を撮ったという。塙が捉えたのは来年70周年を迎える同協会所属の芸人たちと彼らの本拠地・浅草東洋館だ。
「離婚した夫婦漫才師、相方と嫁と片腕を失った老芸人、相方に先立たれた男……それでも笑いに救われて生きる芸人たちの姿を、ぜひスクリーンで目撃してください」
大変な時代にこそ見直したい伝統としきたり、笑いという名の武器
『水曜日のダウンタウン』では存続の危機にあった漫才協会の重鎮、おぼん・こぼんの「解散ドッキリ」に協力し、関係修復に一役買った。YouTubeチャンネル『ナイツ塙会長の自由時間』でも、多くの協会所属芸人たちを紹介してきた。そんな塙が初監督作で東洋館の舞台を踏む芸人たちを被写体に選んだのも必然か。
「当初は1960年代に活躍した漫才コンビ、晴乃チック・タックについて師匠方に語っていただこうとカメラを回していました。ところが撮れ高が全然ない。膨大な素材だけが残ったので、漫才協会と東洋館を紹介する映画に切り替えた。要するに行き当たりばったりです(笑)」
本作に登場する芸人は誰もが終始和やかに漫才協会や東洋館への愛着を語った。しかしワンシーンだけ緊張感がみなぎる。それは漫才協会の草野球チームの試合前の出来事。塙が後輩芸人をたしなめるシーンだ。
「あのシーンは高田文夫先生も褒めてくれました。みんなちゃんとユニフォームを着てるのに、一人だけ短パン穿いてたヤツがいて、そんなところでフザケるなと僕が叱ったんです。昔はそういう基本的な礼儀などは師匠から学べたんですよ。内海桂子師匠も服装のことではよく怒ってました。今の漫才協会は師弟制度もやめちゃったけど、会長としては伝統を見直したい。漫才協会とお笑いの学校を差別化するためにも“しきたり”は大事ですね。人間としての厚みを育てる気風は漫才協会の強みです」
M−1審査員や漫才協会会長として身を粉にしてお笑いの発展に尽力する、塙の原動力とは?
「大学時代、創立者から聞いた“笑いは庶民の知恵、笑いは庶民の武器”という言葉が座右の銘なんです。実際、僕も子供の頃のイジメを笑いで乗り越えました。だから僕は笑いという武器を、みんなにも配りたい。今回の映画にも悲惨な経験をしてきた芸人がたくさん出てくるけど、悲壮感がないですよね。それもやっぱり笑いのおかげ。この映画で“芸人っていいな”と思った観客には、ぜひ自分でもお笑いをやってみてほしいです。お笑いなんて別に高尚なものじゃなくて、誰でもできる芸ですから」