サウナの街
「サウナが盛り上がっている都道府県はどこか?」と尋ねられたら、多くのサウナーが愛知県の名古屋市と即答するだろう。業界最大手の〈サウナ&カプセルホテル ウェルビー〉が3店舗も構え、大勢のお客で賑わう〈天空SPA HILLS 竜泉寺の湯 名古屋守山本店〉も名古屋が本店。冨士商事グループが手がける〈リラクゼーションスパ アペゼ〉と〈サウナ&カプセル フジ〉という巨大な施設が存在するのも名古屋ならでは。
東海地方最大級の〈キャナル・リゾート〉も名古屋。こちらの水風呂は日本で最も深いとされる2m(女湯は1.85m)で炭酸水! 規模だけでなく、斬新なアイデアや設備も生まれるのが名古屋の魅力といえるだろう。
こうした強豪施設がひしめく街に、20代の元銀行マンがサウナ施設〈KIWAMI SAUNA〉をオープンさせた。そして連日大盛況というのだから気になる話だ。
鳥取県出身の元銀行マン
〈KIWAMI SAUNA〉をオープンさせたのは、27歳の中島惇生(なかしま あつき)だ。中島は鳥取県鳥取市出身。新卒で大手銀行に入社し、2年間を埼玉県大宮の支店で働く。その際に体験したのが熾烈な銀行マンの労働実態だった。
「法人営業の部署でしたが、そこがバリバリ体育会系。同僚が全員、ほとんど寝ずに働き続けるんですよ(笑)。朝まで飲んで、ネットカフェでシャワーを浴びて出勤するような毎日。自分も自然と慣れましたが、いま考えると自律神経はメチャクチャでした」
そんな中、サウナ好きな友達に誘われてサウナを知ったのは、2019年の時。
「産湯は〈カプセル&サウナ 池袋プラザ〉。友達に水風呂に浸けられて、その後にお風呂の縁に座っているときに強烈な『ととのい』がやってきました……。それからハマってしまい、サウナが生きがいに」
その後、名古屋に転勤。何の不自由もなく満足して働いていたが、2020年11月に転機が起きた。
「大好きな祖父が亡くなったんです。祖父は会社を複数経営し、積極的に障がい者雇用や社会貢献活動をしていた人。そんな祖父が亡くなると、たくさんの見知らぬ人から生前の感謝のメッセージが届いたんです。そのときに、自分も祖父みたいに生きるにはどうしたら良いか考えるようになったんです」
起業は大好きなサウナで
会社を辞めて考えたのは、大好きなサウナで人の役に立つことがしたいということ。
最初に考えたのは、銭湯修業をしながらの「銭湯のサウナコンサル」だった。だが、既存のサウナの改修で自分の理想のサウナを作ることの難しさを実感し、2021年になると自ら最高のサウナをつくるために資金調達を始める。その中で選んだのが「令和の虎」への出演と資金の獲得だった。
結果は成功。クラウドファンディングもスタートさせ、資金調達は5000万円に達する。最後の最後に見つけた元傘屋の古民家物件に一目惚れをして、場所を決めた。
仮説でしかなかった自分のこだわりを実現させるために、渾身の思いで造りきったという。
一億総サウナ社会を目指して
「狭いサウナ室を閉塞感を受けずにつくるにはどうしたらいいかを、設計をお願いした会社に相談しました。すると鏡を使って奥行きを出したトイレのデザイン事例を見せてもらい、これをサウナストーブの両サイドに使う案の提案を受け、採用しました。」
中島がつくり上げたサウナ室は既存のサウナ室では見たこともない、鏡面を使った近未来的な雰囲気だ。綺麗にリノベーションされた古民家には、深さ2mのキンキンに冷えた水風呂、日本庭園風の庭での外気浴スペースもある。美味しいご飯やお酒が飲める「食堂きわみ」も2階スペースにつくった。サウナだけではなく、至高のサウナ飯も体験できる。
「目指したのは日本一気持ち良いサウナ施設。ここに来てくれれば絶対に『ととのう』サウナをつくりました。最終的には、一億総サウナ社会を実現させたいですね」
中島の夢は始まったばかり。レディースデイもあるので、ぜひ足を運んでもらいたい。