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現代川柳は、奇天烈だ!川柳作家・暮田真名がその魅力とイチオシの句を紹介

詠み手の名が立ち、文学性が強い現代川柳。その最大の魅力とも言えるのが、詩的でおかしみのある奇天烈な一行と出会えることだ。読み方は自由自在。川柳作家・暮田真名さんの案内で不思議と元気になれる表現世界へ!

text: Yoko Hasada / edit: Emi Fukushima

教えてくれた人:暮田真名(川柳作家)

一読ではわからない、けれどジワジワと面白さが押し寄せる句の数々。「句集を一冊読むだけで、川柳の中でいろんなおかしな出来事が起こっていることがわかります」と暮田真名さんは話す。川柳と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、時事的なトピックを哀愁たっぷりに著したサラリーマン川柳(通称サラ川(せん))だろう。しかしそれらと一線を画すのが、現代川柳だ。

「社会の普通を書くのがサラ川なら、普通から外れるあり方を書くのが現代川柳。作者名が残るため文学志向が強いのも特徴です。言葉の実験のようなものから、視覚的に趣向を凝らしたものまで、実に多様な句が生まれています」

そもそも川柳は五七五で書かれた短詩で、俳句と違って季語をはじめとする細かなルールがないのが特徴。その自由度の高さゆえに、遊び心に溢れた表現が花開いた。暮田さん自身も、そのある意味での“奇天烈”さに心掴(つか)まれた。

「昔からみんなにとって普通とされることに馴染めず、共感に重きを置かれているものにはピンとこなくて。“この人しか書かないだろうな”ということを書き、“一人っきり”の視点を持つことを肯定してくれる現代川柳が好きです。さらに意味性にとらわれない現代川柳は、そこで書かれることが“間違っていてこそ、最高”だと私は思っています。

道義的に間違っていることや矛盾も詠まれますし、時に不条理漫画のようでもある。私も“考えたことがないことを書こう”と思って書き始めますし、読み手に伝わるかどうかは気にしたことがありません。現代川柳の、言葉をそのまま静かに受け止めてくれる懐の深さが心地よいです」

伏線を回収したり、考察したり。今は何らかの正解を見つけることがもてはやされるけれど、わからないことだって楽しいはず。句集を初めて手にした時は、どう接するとより楽しめるのだろう。

「理論を学んで知識を蓄えるジャンルではないので、読み方の決まりはありません。初めは“何言ってるんだか”というスタンスでいいですし、実際そうなると思います(笑)。でもその先には、思わず噴き出す一句や、やるせない出来事がどうでもよくなってしまう強い句にも出会える。アニメや著名人などの固有名詞を扱った句も多いので、興味のあるものから気楽に味わってもらえたら嬉しいです」

暮田真名さんが選ぶイチオシの9句

いっせいに桜が咲いている
ひどい

松木秀/作
桜並木
『金曜日の川柳』(左右社)に収録。歌人としても知られる作者。「共感も同情も求めない、この“ひどい”にはすごみがあります」

かなしくてベルリンと言う
強く言う

倉本朝世/作
地図
『なつかしい呪文』(あざみエージェント)に収録。「赤ちゃんの泣き声のようで理想的。理路整然としゃべれなくても黙らなくていい」

妖精は酢豚に似ている
絶対似ている

石田柊馬/作
酢豚
『石田柊馬集』(邑書林)に収録。現代川柳を語るうえで外せない作者。「絶対と言い張るのが可笑(おか)しい。私の川柳観を作った句」

こんにゃくに生まれ
笑いが止まらない

浪越靖政/作
こんにゃく
『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)に収録。「笑うしかないから笑っている。破れかぶれな感じに胸を打たれます」

ぼったくり移動遊園地
行きたし

竹井紫乙/作
遊園地
『菫橋』(港の人)に収録。ねじれた視点が魅力の作者。「ぼったくり自体は辛い出来事のはずなのに、不思議と祝祭感があります」

いい単車持ってるね
顔を書いてやる

我妻俊樹/作
バイク
同人誌『SH』に収録。各作家一句はある迷惑系川柳の秀作。「嫌だけどポップでユーモラスな発想にときめきます」

エアギターのようにあいされている

八上桐子/作
エアギター
『hibi』(港の人)に収録。「自身をエアギターに譬(たと)え、相手の独善的で滑稽な愛し方を冷めた目で見つめています。とても怖い句」

みんな去って
全身に降る味の素

中村冨二/作
味の素 うま味調味料
『中村冨二・千句集』(現代川柳柳人叢書刊行会)に収録。「突然登場する“味の素”が、老いの寂しさと孤独を力強く伝えます」

☆定礎なんかしないよ
☆繰り返し

暮田真名/作
礎石
『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)に収録。「歌詞カードの繰り返し記号を使いたくて詠んだ句。言葉を起点に句を考えます」

写真提供:アフロ