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コーヒーかすでキノコを栽培?循環型農業の可能性を拓く、清澄白河〈KINOKO SOCIAL CLUB〉

地域内循環経済をテーマに、〈フードハブ・プロジェクト〉を創業して約10年、徳島県神山町で活動してきた眞鍋太一さん。その経験を踏まえ、東京で立ち上げた〈KINOKO SOCIAL CLUB〉が目指すものとは?

photo: Masayuki Nakaya / text: Noriko Wada / edit: Eri Ishida

近年、コーヒーとアートの街として知られる東京・清澄白河。駅から程近い焦げ茶色のビルの1階にある〈KINOKO SOCIAL CLUB〉を訪ねると、フロアの一角にガラス張りのユニットが鎮座し、中には立派なキノコたちがニョキニョキと。さながら屋内ミニ農場といった趣だ。

コーヒーかすの菌床で育てたキノコ。上段はヒラタケ、エリンギ、ブナシメジ、下段はタモギタケ。

「地域のコーヒーショップに協力してもらい、そこで出るコーヒーかすで菌床を作ってキノコを栽培しています。ここは、キノコが育つ様子を間近で見ながら、その料理を食べることができるファクトリー&カフェ。食材を育てる場と食べる場が繫がっていて、都市では見えづらい循環を実感できる。そんな場所として2025年4月にオープンしました」

そう話す代表の眞鍋太一さんは、14年に徳島県神山町に移住。16年から町役場とともに設立した〈フードハブ・プロジェクト〉の共同代表として、地域内経済循環をテーマに、さまざまな活動に取り組んできた。

眞鍋太一さん
眞鍋太一さん。

「農業法人として農作物を育てるだけでなく、地域の食材を使った加工品を開発・製造したり、食堂やパン屋、食料品店を運営したり、学校給食の運営をしたり。この10年で、日常の食を通じて地域に貢献できているという実感が自分の中にようやく出てきました。それと同時に、東京でも同じことができないかという思いが数年前からあったんです」

神山の地に根を下ろし、地元の人たちだけでなく国内外のさまざまな人たちと繫がりながら、食を通して里山を耕し続けてきた眞鍋さん。そんな10年を経て、今度は都市を耕そうと東京で始めたのが〈KINOKO SOCIAL CLUB〉というわけだ。

都市でできる食糧生産と循環型農業を目指して

なぜ眞鍋さんはキノコに着目したのだろうか?きっかけは2つある。

一つは、世界では以前からコーヒーかすでのキノコ栽培が行われていたこと。

「ゼロエミッション(廃棄物を再利用して農作物を生産する)農業に関心がある人たちの間では、コーヒーかすでキノコ栽培ができることはわりと知られていました。自分が支配人を務めるレストラン〈the Blind Donkey〉のある清澄白河なら、地域と繫がりながら、都市ではゴミとされている有機物から食べ物を作ることができ、シェフもいるので料理を提供するところまでできる。神山でできていたショート・フード・サプライチェーンが実現できるのではないかと思いました」

もう一つは、もともと神山では産業としてのシイタケ栽培の歴史が古く、日本有数の産地だったこと。〈神山椎茸生産販売協同組合〉が工場で菌床栽培する「神山しいたけ」の生産量は全国トップクラス。〈フードハブ・プロジェクト〉では、そこから出る廃菌床を堆肥化して野菜を育てる取り組みも行っている。

「そんな循環型農業として、東京でキノコ栽培ができれば面白いなと思いました。調べてみると、菌床にコーヒーかすを20〜30%加える程度ならできるとあったけど、それだとあんまり意味がないなと」

そんなとき、山梨県にあるキノコの種菌メーカー〈富士種菌〉と出会い、100%コーヒーかすによる菌床でのキノコ栽培が実現。自宅でできるキノコ栽培キットも販売し、将来的には、家庭で出たコーヒーかすでも栽培できるよう、より育てやすい種菌の開発・販売も目指している。

「誰でも生産者になれる。その可能性に気づいてもらえたら。都市での食糧主権もコンセプトの一つです」さらにキノコは今、食糧としての可能性だけでなく、環境浄化や医療、サステイナブルな新素材として建築やファッションの分野でも注目されている。

「キノコをきっかけに、建築家やデザイナー、アーティストなど、さまざまな分野の人たちとも繫がることができる。今後はそういう方たちを招いて、ワークショップや商品開発などもしていきたい」

それこそが、〈KINOKO SOCIAL CLUB〉と名乗るゆえんだ。

FOR GX

・地域で出るコーヒーかすからキノコを栽培。
・栽培したキノコが食べられるファクトリー&カフェの運営。
・コーヒーかすを使用したキノコの自宅栽培キット販売。
・ワークショップ、勉強会などの開催。