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“スペシャルティを日常に”。ソウルの街角に根づいた〈MILESTONE COFFEE〉の変わらない味

“コーヒー=アイスアメリカーノ”と言っても過言ではないほど独自の進化を遂げている韓国で、スペシャルティはどのように受け入れられ広がっているのか。キーパーソンが語るその歴史。

photo: Tetsuya Ito / text: Koji Okano / coordination: Saliy Higashiyama

海外のカフェカルチャーと、バリスタの目指すべき姿

週末に店前にできる行列。カロスキルと漢南、聖水に店舗を構える〈MILESTONE COFFEE〉は、今やソウルで屈指の人気を誇るロースタリーカフェ。白壁に温もりのある木製のテーブル、大きな窓から注ぐ陽光。バリスタの丁寧な接客、優しい飲み口のコーヒーも含めて、毎日通いたいと思える空間がここにある。

「2011年にシドニーに渡り、バリスタとして2年働きました。現地でスペシャルティコーヒーは、もはや当たり前の存在。その味にも感激しましたが、何より印象深かったのはコーヒーが日常に根づいていること。シドニーのカフェ文化ごと、韓国に持って帰りたいと思ったんです」

半年の準備期間を経て、14年に〈MILESTONE COFFEE〉を立ち上げた、代表のキム・ヒョンジュンさん。当時の韓国のコーヒー業界はフランチャイズ店が大勢で、個性的なコンセプトで徐々に評判を呼んでいった。今では40名のスタッフを擁し、日々、その指導にも当たっている。

キムさんが重視する仕事が、カッピング。自身が焙煎した豆を粉砕してカップに入れ、粉量、湯温、湯量、浸漬時間などすべての条件を揃え、複数の豆をテイスティングする作業。

「例えば“A”という豆を注文されたら、毎回同じ風味で抽出する。それがおそらくすべてのバリスタの目標であり、使命だと思うんです。韓国のカフェでメジャーなイタリアの〈La Marzocco〉のエスプレッソマシンは操作中の温度管理が容易。ほかにも豆を均一の粒度に挽く高性能グラインダー、スピーディかつ精緻に豆の風味を抽出するドリッパーなど、現在は韓国でも進化したコーヒー器具が出回っています。でもどれだけ便利な時代になっても、一番大切なのはバリスタの舌の経験値。だからこそ僕の店では、毎週水曜日に焙煎所にスタッフ全員を集めてカッピングを行うようにしているんです」

キムさんが追求するのは、毎日飲めるコーヒー。その一杯は苦味、酸味、甘味、香味、コクなどすべての要素が均衡をもって同居する。そのバランスを10年以上守ってきた自負。それを支えるのが、自らの味覚だ。

「ミルク入りでも、クリーンな味にしたい。無論、僕の理想が正解とは考えていません。でも良いコーヒーの基準になれたらとは思っています」

キム・ヒョンジュン