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粋な着こなしとは。菊池武夫に小木“Poggy”基史がインタビュー

数々のファッションルールを覆し、時代を彩る粋な男の洋服をデザインし続ける菊池武夫。“武先生”と呼ばれ慕われるレジェンドのアトリエを、ファッションアイコンとして注目を集める〈ユナイテッドアローズ&サンズ〉ディレクター(取材当時)、小木“Poggy”基史が訪ねた。

photo: Shunya Arai / text: Takuhito Kawashima

小木“Poggy”基史

今日着ていらっしゃるオーバーオールはどちらのものですか?

菊池武夫

自分でデザインしたやつ。

小木

素敵ですね。

菊池

小木君も変わったジャケット着てるね。

小木

インディゴ染めのウールを使ってオリジナルで作ってみたんです。
失礼ですが、武先生って今おいくつになられたんですか?

ファッションデザイナー・菊池武夫、〈ユナイテッドアローズ&サンズ〉ディレクター、小木“Poggy”基史

菊池

75歳ですよ。小木君は?

小木

今年で38歳になります。

菊池

半分ぐらいだね。すごいよね、それはそれで。

小木

信濃屋〉の白井俊夫さんも同じぐらいのお年でしょうか。

菊池

そうじゃないかな。

小木

白井さんみたいにいつもピシッとされている方ってあまり日本にいないじゃないですか?
武先生みたいに75歳になられても、〈KIDS LOVE GAITE〉の靴を履いてらっしゃるとか。ラリー・クラークもシュプリームのTシャツ一枚にステッキを持っていたり。

70代の方ってすごくかっこいいですよね。特にトラッドなファッションは年を重ねるごとにどんどん魅力的になりますよね。

Poggyさんが愛する70代の男。

菊池

そうかもね。でも粋って難しいよ。僕が粋だなって思う人は、僕とは全然関係のない仕事をしている人たちで、例えば落語家。
いろんなことをよく知っていて、それを自分なりにうまく捉えている。しかもそれをあまり見せないんだよ。少し俯瞰から見ているような感じとかかっこいいじゃない。

小木

例えばどんな方ですか?

菊池

五代目柳家小さんさんとか、古今亭志ん朝さんとかかな。

小木

確かに武先生がおっしゃるように、いろんなことを経験して、自分が何を身に着ければ生き生きするのかを知っている人は、粋を感じますよね。
武先生を含め、さっきお話しした白井さんもラリー・クラークもそうかもしれないです。そう考えると粋っていうのは、アナーキーと通じるところもあると思うんですね。

菊池

確かにあるね。

小木

武先生がデザインされる服もアナーキーですよね。

菊池

別にアナーキーなつもりでやっているわけじゃないんだけど、みんながやっていることに反対したくなる。性格なんでしょう。
人が言えば言うほどやりたくなくなる。隙間を探しているみたいなところはありますよね。

小木

なるほど。

菊池

本当は王道が好きなんですよ。でも、いつかその資質がないことに気づいて、脇道からモノを見るようになっていったんです。ひねくれ者ですよ。
僕と小木君は世代が違うじゃない。だから見てきた人たちや世界観もずいぶん違うんじゃないのかな。

お洒落をしようとする努力は
粋とは別のこと。

菊池

僕は昔も今もあんまり雑誌を見ないんです。雑誌よりも音楽の影響が大きい。ジャズをやっている人たちのなんていうのかな、体の動かし方とかあのデンジャラスな感じ。
だからジャズマンに憧れて洋服に目覚めたんです。スーツを銀座の〈壹番館〉とか〈ミロ〉で仕立ててね。それで歩き方もツーステップで歩いてみたり……。

小木

え、歩き方からですか?

菊池

そう。体の力を抜いて、手をぶらぶらさせて歩く。そんなことを10代後半に一生懸命やってましたよ。

武先生が憧れるジャズマン。

小木

すごいですね。僕はロックやパンクを聴いていたんですけど、25歳のときに初めて行ったニューヨークのクラブでかかっていたヒップホップに洗礼を受けました。
そこからルーツとかを調べて、ブルースとかに辿り着きそれも聴くようになりましたね。

菊池

実は私もヒップホップ大好きなんですよ。あのね、一時期ヒップホップに憧れて、体重を今よりも10キロ以上大きくして、ダボダボの洋服着ていたんです。
音楽もトゥパックばかりでした。それにCDも出しているんです。恥ずかしい過去ですけどね。

小木

それはすごいですね。いつ頃のお話ですか?

菊池

2001年ぐらいだったと思うんだけど。

小木

知らなかったです。粋っていうのは、周りの目があるからこそ、粋なのかなと……。
女性からどう見られるかとかのモテも関係あるというか。それについてどう思いますか? 

菊池

本質じゃないかと思うんだよね。才能に近いというか。
粋になろうとしても粋に見えないんじゃないかな。あまり普段から見せないからそれが垣間見えたときに粋を感じるのだと思いますね。

小木

なるほど。先ほどの裏がある人ですね。
でも武先生は、とてもおモテになられたんじゃないですか?

菊池

モテないわけじゃなかったけど(笑)。私はモテるモテないじゃないんですよ。
軽やかなんですね。積極的だったというか、お酒の嗜みみたいな感覚ですね。だから面白かったのもありますよ。ふざけて生活できた部分もあるから。

今は遊ぶこと自体全然面白いこともなんともない。夜中飲んでても別に悪さしないから、全然面白くないね。小木君にとって“洒落”ってどんなことになるのかな?

小木

スタイルですかね。粋と通じることがあると思うんですが、Tシャツ着ても、スーツ着てもその人になるっていうのがスタイルだと思っています。
ただそれにカルチャーが入ってこないと、深みが出ないんですけどね。

菊池

だからファッションは、逆に嗜まない方がいいんですよ。ファッションは恋のように移ろいやすくて、とりとめないものじゃないですか。
だから自分を磨くには同じものを一生着ているような感覚が必要なんじゃないですか。

〈BUFFALO〉のレイ・ペトリさんだって、いつも黒のMA-1しか着ていなかったし、帽子も同じものしかかぶってなかった。彼は粋でした。
だから洋服に関しては狭い方がいいんじゃないですか?もちろんほかのことは別ですよ。

ファッションデザイナー・菊池武夫