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ランニングシューズをランウェイにふさわしいデザインに。〈Kiko Kostadinov〉×〈Asics〉コラボシューズ

若きファッションデザイナー、ブルガリア出身のキコ・コスタディノフ。英国のCSM(セントラル・セント・マーチンズ)在学中に〈ステューシー〉とリメイクのカプセルコレクションを発表するなど活躍が目覚ましい。そんな彼に、アシックスとコラボレーションしたシューズのデザインについて聞いた。

初出:BRUTUS No.894「愛と欲のスニーカー。」(2019年6月1日発売)

photo: Shota Kono / text: Masayuki Ozawa

アシックスがハズしだなんて思ったことは一度もないね

ブルガリア出身のキコ・コスタディノフは若きファッションデザイナー。英国のCSM(セントラル・セント・マーチンズ)在学中に〈ステューシー〉とリメイクのカプセルコレクションを発表するなど活躍は目覚ましく、彼の若い感性が世界的に評価されている。

最近、海外でも活躍するモード界のデザイナーがアシックス、特に本格的なランニングシューズを履く姿を頻繁に見かけるようになった。そんな渦中にキコ・コスタディノフとアシックスのコラボレーションはスタート。ちなみにキコは、小さい頃からアシックスのファンだったという。両者の友好な関係性は持続しており、アシックスは着実な成果を収めている。

「CSMに通っているときに話があったんだ。アシックスはパフォーマンス重視のブランドだから、僕のようなファッションブランドと結びつくことの見え方や影響をすごく気にしていた。だからどういったコラボレーションを一緒に進めていくべきか、ゆっくりと話し合ったんだ。
最近、アシックスを履いている人が増えているのは僕も気づいているよ。一度足を入れたらラグジュアリーブランドのスニーカーとはまるで違う感動を得ることができるからね。ファッション業界の人たちは常に歩いていて、長い時間仕事をしているはずだから、気持ちのいい靴が純粋に欲しいんじゃないかな」

カラーに付加価値を与えランウェイで成立させる

キコは、快適な履き心地をそのまま享受することを美徳としているわけではない。ハイテクなランニングシューズをランウェイにふさわしいデザインとして成立させることが自分の役割だと過去に話している。その違いとは?

「パフォーマンスシューズであることは前提だけど、昔から特別に好きなモデルがあるわけではない。一応アーカイブをチェックして、いいパーツやディテールを切り取ったり、過去に誰も手がけたことのないことにチャレンジしたり。徐々に合体させて一足のシューズを作り上げていくんだ。そこに自分のコレクションの色やスタイルを合わせていく感じだね」

第1弾は2018年2月に発表。モデル「ゲル バーズ1」はランニングの「ゲル ニンバス20」とトレイルウォーキングの「ゲル ベンチャー6」を掛け合わせた。2018SSのキコ・コスタディノフのコレクションとカラーを連動させ、黄緑のライムエイド、グレイッシュなバーチ、そしてオールブラックがラインナップ。曲線的なカッティングと快適な履き心地を備えた、インラインにありそうでない不思議な感覚が評価された。

「アシックスはコラボレーションに関して寛容で、何周年とかいう理由で注力モデルを強制されることもない。リレーションを深めながら一緒に作っていける会社の方針にはただ尊敬の気持ちしかないね。僕の自由な感性を受け入れてくれる。それがほかのブランドにはない魅力だと思うよ」

キコにとってアシックスは直球のファッションだ

アシックスはライフスタイル向けに〈アシックスタイガー〉を2015年に復活させ、新しいスタイルを提案。それは1980〜90年代のスタイルがベースなだけに、今のファッションとの相性は良い。しかし“アシックスは速く走るための靴”と刷り込まれてきた日本人の多くは、感性が鋭い若者の欧州デザイナーがパフォーマンスシューズをファッションに用いる感覚を、変化球と決めつける。

そこを狙うキコに自由を与えたアシックスの懐の深さが、結果に結びついている。あくまでコーディネートの一部としてスニーカーを考えるキコに“あえてアシックス”という美学が本当に介在していないのかは、気になるところだ。

ファッションデザイナー・キコ・コスタディノフ

「チャンキーでカラフルなモデルもスリークな黒いスニーカーも作る。基本的にシーズンに合わせてシューズをデザインしていくから、アシックスがハズしなんて感覚は全くないね。日本は大好きだけどナイキでもアディダスでもなく、アシックスだから湧き起こる特別な感情もない。とにかくアシックスの履き心地と色のセンスと素材感が純粋に好きなんだ。
特にゲルとメッシュ素材をどう料理するかを楽しんでいる。僕はヘッズではないからスニーカーのトレンドが耳に入らないし、ただデザインだけに集中しているよ」

ファッションでありながら軟派にならない、キコ独特の感覚を自由に表現させたアシックスは間違いなく、ハイセンスなブランドとして海外に評価されている。

キコ×アシックス コラボシューズ一覧

VOL.1

「GEL-NIMBUS 20™」のソールに「GEL-VENTURE 6™」のアッパーを融合させた「GEL-BURZ 1™」は2018年SSで披露。自身のコレクションとカラーリングをリンクさせた。

VOL.2

サイドと爪先にレザーパネルをあしらった「GEL-BURZ 2™」。デザイナーの出身地であるブルガリアの伝統的な陶器からインスパイアを受けたカラーリングを新たに採用した。

VOL.3

通気性と軽量性、クッション性に優れた「GEL-KAYANO™ 24」をベースに3種類のシューズをミックス。ランやトレイルなどシリアス向けのモデルをファッションに昇華させた。

VOL.4

「GEL-DELVA™」はアシックスストライプをレイヤードした複雑なデザインが特徴。第3弾からのカラーバリエ提案でシームレスのシャツやタイツなどアパレルラインも登場。

VOL.5

「GEL-SOKAT INFINITY™」は綱引き用シューズ「ツナヒキ109」から着想を得たデザイン。アシックスの「a」をモチーフとしたスパイラルロゴをメタリックに表現した。

〈asics〉「GEL‒SOKAT INFINITY」