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Podcast番組「奇奇怪怪明解事典」× ギャグ漫画家・藤岡拓太郎〜後編〜「笑い」は海を越えられるのか?

MONO NO AWAREの音楽家・玉置周啓とDos Monosのラッパー・TaiTanによる言語編纂室型Podcast番組「奇奇怪怪明解事典」。ふたりが尊敬してやまない、シュールな世界観が人気のギャグ漫画家・藤岡拓太郎をゲストに迎え、特別対談を敢行。ともに新刊を発売する3人が、お互いの本のことから、お笑いから日本語の行方まで大放談。前編につづき後編をお届け。「Podcast番組“奇奇怪怪明解事典”× ギャグ漫画家・藤岡拓太郎“笑い”の原体験をたどる旅」はこちら。

Text: Daiki Yamamoto

「笑い」と「怖さ」の関係性

玉置

藤岡さんは「『くだらねえ』というだけでマンガを描けたときがうれしい」と(前編で)おっしゃってましたが、その感覚って「ギャグマンガ日和」とかの影響もあるんですか?

藤岡

「ギャグマンガ日和」もそうですし、ダウンタウンとか天竺鼠の影響もあると思います。単純に「くだらない」が一番かっこいいなと思うので。

TaiTan

そこに天竺鼠も入ってくるんですね。僕も2010年代の漫才で一番笑ったのは、『THE MANZAI 2013』での天竺鼠の「落し物」という漫才でした。ハンカチを落とした女性を追いかけていったら、最後に卵から菊川怜が出てくるっていう……。

藤岡

天竺鼠は本当にもう……最高ですよね。天竺鼠だけが拠り所だった時期が僕にもありました。僕は特に「将棋」のコントが好きで、ある種の「美しさ」があるのにそれがくだらなさの邪魔をしていないのがすごいんですよね。

TaiTan

それでいうと、藤岡さんは「笑い」と「怖さ」の関係についてはどう思いますか? 藤岡さんのマンガは面白いのにどこか怖さも潜んでいるような気がするんです。世界の破れ目みたいなところから、あっちの世界が見えちゃったような感覚というか。

藤岡

1ページという短さもあると思うんですけど、交通事故を目撃してしまったようなどうにもならない感はあるかもしれないです。

TaiTan

これは「奇奇怪怪」でも話したんですけど、古い駄菓子屋のレジの奥にある住環境が見えてしまったときの「あっ」ていう感覚に近いような気がするんですよね。

玉置

『ヘレディタリー/継承』っていうホラー映画に、呪われてしまったお母さんが天井に張り付いて頭を高速連打するシーンがあって。怖いシーンではあるんですけど、めちゃくちゃ爆笑しちゃったことを思い出しました。

藤岡

たぶん、僕のマンガはわかりやすいツッコミがないのが怖いんだと思います。たとえば、つげ義春さんのマンガも、「ボボボーボ・ボーボボ」のビュティみたいなやつが全コマにツッコんでたらめちゃくちゃポップになりますよね。

TaiTan

確かに!

玉置

「いや、石売って何になるんだよ!」みたいな(笑)。ツッコミがいない怖さ、みたいなのもあるんですね。

海外にも伝わる「笑い」の形

藤岡

僕からおふたりに聞きたいのは、海外での作品発表や活動についてです。僕は今後、海外でも読んでもらえるように翻訳を前提としてマンガや絵本を作りたいと思っていて。Dos Monosはすでに海外でも活動されていますが、歌詞の翻訳もされているのですか?

TaiTan

メンバーに英語ネイティブの人がいるので、彼が主に英語の翻訳を担当しています。

藤岡

ラップだと、翻訳が難しそうですよね。翻訳することでこぼれ落ちてしまうものもありませんか?

TaiTan

日本語の微妙なノリを英語に直すと、かなりナンセンスにはなりますね。でも、もともとナンセンス気味なグループなんで、誤読も含めて海外の人は喜んでくれているみたいです。

藤岡

なるほど。

TaiTan

だから、こぼれ落ちてしまうものはあるけど、逆に予想外のものが乗っかってくる……という感じでしょうか。

玉置

それが翻訳の面白いところでもあるよね。

TaiTan

逆に、藤岡さんのマンガを翻訳するのは面白そうです。「たす」をどう翻訳するのか……。

藤岡

それこそ「たぷ」もどうしようかな、と。

「たぷの里」(ナナロク社)より。

玉置

日本語はオノマトペが世界一レベルで発達してるから、「たぷ」のニュアンスを表現する言語がほかに存在するのか?という問題はありそうですね。

TaiTan

海外では、日本語の「らめええ」という表現が、海外だとDがなまって「ROON'T」になってたりするみたいです。だから海外の言語に合わせて造語を作っちゃうのもありですよね。

藤岡

英語もそういう意味ではけっこう柔軟なんですね。意外と日本語の音の面白さに頼ってる部分もあるので、翻訳しても面白さが崩れない形で書いていきたいなと思いました。

玉置

藤岡さんはかなり独特な言語感覚をお持ちだと思うので、英語圏の作家さんと、英語のニュアンスからもう一歩先の「たぷ」を一緒に作ったら面白そうですね。「Tup」だと弱いかな?みたいな。

藤岡

それはいいですね。実際、海外のお客さんが『たぷの里』を面白がって買ってくれたことはあるので。

玉置

あとは言葉の意味を説明しきらずに、「日本語にはこれを“TAPU”という音で表現する」という形で読者の理解が広まる可能性もありますよね。MONO NO AWAREの「ゾッコン」という曲も、アニメ映画の影響もあって海外で多く聴かれたのですが、外国語圏の方がZokkonの意味を自分で調べてコメントをくれる、ということもあって。

藤岡

勇気の出るエピソードですね。日本のお笑い文化も、まだまだ世界に広まっていないと思うんです。

TaiTan

そうですよね、日本のアニメやマンガは世界でブームになっているのに。個人的には、ジャルジャルがそこを突破するんじゃないかと思っています。

藤岡

おお、ジャルジャル。海外ライブたまにやられてますよね。

玉置

ジャルジャルはシュールと言われてますけど、実はベタな部分も大きいですよね。面白い状況を作って、あとはその世界で過ごしているだけだから、伝わりやすいんじゃないかとも思う。

藤岡

その芸人さんに対する前知識がなくても笑える、というのを芸人さんが本気で世界に向けて作るようになったらえらいことになるんじゃないかな、と期待しています。

玉置

天竺鼠が「将棋」で世界を獲る可能性はありますね……。藤岡さんも違う文化圏の人たちを笑わせたい、という気持ちが強いんですね。それで今回の「マメパオ」のような「かわいい×お笑い」に、いったんたどり着いたのかな、と想像しました。

藤岡

今回「かわいい×お笑い」を作ったのはそれもあるかもしれません。次は「謎すぎて笑えるもの」に挑戦してみたいな、と思ってるんです。こんな感じで……。

藤岡拓太郎「謎ポスター」のラフ
藤岡さんが見せてくれた「謎ポスター」のラフ。
藤岡拓太郎「謎ポスター」のラフ

TaiTan

怖すぎる(笑)。

藤岡

こういうなんのメッセージ性もない謎ポスターをいっぱい展示するようなものを考えています。

TaiTan

その展示はぜひ見てみたいですね。このポスターで『奇奇怪怪明解事典』の書籍にもエールを送ってほしいです。

藤岡

謎エール、考えてみます!