先日まで行われていた世田谷美術館での『民藝 MINGEIー美は暮らしのなかにある』の巡回展でもひときわブレイクしていた民藝界の異端児、染色家の宮入圭太さん。
民藝でTシャツ?なんて思う人も多いかもしれないが、現代の作家たちは暖簾(のれん)や手拭いばかりを染めているわけではない。もちろん、染めるのは布や和紙が基本だが、Tシャツだって立派な布である。
ただ、宮入さんとて、型染めのTシャツは自身の個展を開く際に、彩りを添える程度に作るくらいで、普段は大きな布に、コンサバティブな民藝としては刺激が強めのモチーフを大胆に染め抜く。
そんな宮入さんが手がける作品が、明らかに他の作家たちと異なるのは、ソフビフィギュアの原型師をやっていた経験と、無作為、格好つけない、見たものがすべてという偶発的美しさへの視点の差が密接に関係している。
「Tシャツを型染めするときは、裏面に柄や文字がのるように染めていきます。なぜそうしているかというと、表をそのまま染めていくと、色が強く出すぎてしまうから。裏から色を入れるくらいが、かすれた感じになっていいし、あんまり器用にやらないのがモットーなんです。
多くの人はキレイにやりたがるし、工芸の中ではそうしないと怒られちゃうかもだけど、美しさってなんだろうって考えると、自由がすべてで、僕は自然なノイズが入っているくらいのものが美しいものに見えるんですよね。
モチーフは昔ながらの花鳥風月のものも好きだし、サイエンスフィクションみたいなものにも影響を受けて図案を作っています。でも、あまりに模様からかけ離れてしまうと、それはそれで違うと思うので、あくまでも工芸の中で自由にやるというのがいいんですよね」
角が出たり、丸くなったり。一枚一枚が作品となる
今回のモチーフは「MAG」という型からもわかるかもしれないが、マガジンだ。せっかく作業工程を見せてもらうのだから、一枚特別に作っていただいた。
「MAGの色は今まで使ったことがなかったオレンジ色にしてみました。染料を混ぜて作っているんですが、いい色になったかな。わざと顔料を入れて、ガサッとさせたりもするんだけど、染料だとTシャツと同じ柔らかさになるのがよさなんですよね。生地の厚さ、染める速度などでも文字や図柄に角が出たり丸くなったりするんですけど、その不確かさも面白さです」
染め抜き、移染しないようTシャツの内側に伸子(しんし)(布幅を保つ竹の棒)を張り、色が定着したら、糊を熱湯で洗い落とし、再度伸子を入れ、乾かす。乾いたあとは、いよいよTシャツを裏返せば、図案が反転された極上の一枚が姿を現す。
新しい民藝を世の中は探している。昔からずっと探しているのかもしれないが、おそらく民藝の外側から飛び込んできた人間がそれを作る。宮入さんもその中の一人となるのだろうし、その手段の一つがTシャツとなる可能性だってある。
今回、型染めの工程に密着させてもらう際に、宮入さんに作っていただいた、ブルータスオリジナル型染めTシャツをブルータスのウェブで超限定販売いたします。
普段は、九段下の〈PACIFICA COLLECTIVES〉、和泉多摩川の〈STEEP GRADE SHARP CURVES〉、幡ヶ谷の〈PALETOWN〉などのショップで宮入さんが自身の個展を行う際に少量だけ作るTシャツを特別にお裾分け。