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インテリアデザイナー・片山正通が選ぶ、いまセンスがいいもの

センスとは、一流に触れ続けることでしか得られないものなのではないか?ならば、一流の作り手たちは、いま何に惹きつけられているのだろうか。インテリアデザイナー・片山正通さんのセレクトから見える2025年のセンスの答え。

illustration: Anri Yamada / text: Masae Wako

センスのいいフリをしない、というセンスに憧れます

「東と西の文化を、その人の経験や個性を反映させるような手つきで融合させるセンスに憧れます」そう話すのは〈Wonderwall®〉を率いるインテリアデザイナー、片山正通さん。ブティックや大型商業施設から住宅まで、世界各国で話題の空間を手がけ続けるデザイン界のキーパーソンだ。

そんな片山さんにとって、美しい空間の在り方を教えてくれる先達が、モダニズムと日本の伝統を融合させた建築で知られる吉村順三。「吉村のモダニズム建築は地味に見えますが、実際に訪れるとその心地よさと美しさに圧倒される。理由の一つはディテールへの尋常ならざる注力でしょう。建具のプロポーションしかり、開口部の収まりしかり。センスは“映(ば)え”じゃないところに潜んでいる。フォトジェニックな空間を求めたがる僕らデザイナーへの戒めにも思えるし、励ましでもある気がします」

一方、映画も音楽も大好きでアートにも詳しい片山さんいわく、「それらのカルチャーはデザインの仕事とフラットな関係にあって、影響もいっぱい受けてます」。中でも最近ハマっているのは、映画制作会社〈A24〉が編集した有名映画のプロモーショングッズ本や、ライブが大当たりだったバンド〈YIN YIN〉

そしてジェシー・アイゼンバーグ監督の映画『リアル・ペイン~心の旅~』。「壮大な演出も飛び道具もなく淡々と進んでいくロードムービーですが、主人公2人の関係性や繊細な心の揺れが丁寧に描かれていて、めちゃくちゃ泣きました。センスがいいフリをしないという誠実なセンスが、人間の愛らしさや痛みを際立たせているんです」

あるいは靴職人兼デザイナーのポール・ハーデンが作る服。「19世紀の織機で織った生地を使う、少し複雑な造形は、着ると本当にかわいい。彼は30年以上、ほぼ同じデザインを作り続けていて、生地だけを変えるんです。かたくななまでに変えない核の部分と時間軸を両立させ、コアなファンを獲得している。30年後も新鮮に着られると思うとすごいですね」

センスはインスタントに得られるものじゃない、と片山さんは言う。足を運び、観て、聴いて、読んで、着て、やっと身につくもの。

「体感しなくても伝わることは、大したことじゃないとさえ思います。だからこそ、建築もアートも映画もデザインも大量に浴び続けたい。そうしてもはやノイズのようになった中から浮かび上がるものが、センスという糧になり、仕事にもにじみ出ると思うんです」