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ドラマー・粕谷哲司とデザイナー・小磯竜也がセッションする切り絵の展示が開催

2021年から“遊び”と称して切り絵を共作する小磯竜也さんと粕谷哲司さん。この夏、これまでできた作品を2回に分けて展示する。2人で切り絵を始めたきっかけと、展示に懸ける思いとは。

photo: Jun Nakagawa / text&edit: Ku Ishikawa

友達の遊び場を訪れるような感覚で

小磯竜也

僕が粕谷くんの所属していたYogee New Wavesのグッズデザインを2017年に担当してからの仲だよね。2人で話していると、音楽と視覚表現とジャンルは違うけど考えてることは近いなって。

粕谷哲司

それで一度、「絵を描けて羨ましい」って言ったら、アンリ・マティスの切り絵の作品集『JAZZ』を見せてくれて、「切るだけならできるんじゃない?」と。本に載っている作品を見ると、平面なのにすごく奥行きを感じたし、せっかくならやってみたいなって。

小磯

予想以上に粕谷くんの反応が良かった(笑)。僕は音楽をやっている人の作る切り絵が見てみたかったんだよね。リズム感がある人が手を動かして作品を作るってそれだけで惹かれるから。そんな話をしている間に、音楽を流してインスピレーションの源としながら2人で作る流れに自然となったよね。

粕谷

小磯くんのアトリエに行って、最初になんとなくルールを決めて。

小磯

制限時間を設けないと完成しないだろうから、アルバム1枚終わるくらいを全体の時間として、持ち時間は1人3分ずつにしてね。

粕谷

もともとの入口がマティスの『JAZZ』だったから、流す音楽はジャズが多いけど、共作という意味ではジャズのセッションに通じるものがある気がするな。

小磯竜也と粕谷哲司の作品
これまで作った作品数は20点ほど。遊びだからこそ飽きない工夫を大事にしており、台紙に紙を貼る一般的な切り絵だけでなく、最近は手前の作品のように、古道具屋で買った金魚鉢に紙を貼っていくなど立体物にも挑戦。SHIPSでの展示では、同じ手法で作ったマグカップなどが販売される。奥の2作品は、普段アトリエでの制作が多い2人が川沿いに場所を移して作ったもの。どの作品の裏にも、その際に流していたアルバム名が書いてある。

偶然性が形になる

小磯

発表することを目的にせず、2人で遊んでるってスタンスだからこそ気づけることも多い。例えば、粕谷くんが紙を切る時って特定の形にしようと思って切ってない。手を動かしたら結果的に丸でした、っていう勢いの良さがある。それを見ると、自分は先にビジュアルを頭に描いてから手を動かしてるんだなとか。

粕谷

切り絵って抽象性が高いから失敗がないし、僕らが決めた時間制限などのルール以外は何をしてもいいんだよね。同じように演奏でセッションする時とか、本来はどう叩いてもいいはずなのに、型に縛られたり、手ぐせで叩いちゃったりすることもある。自由な発想の試みが結果的に面白くなるんだ、っていう創作に大事なマインドを思い出させてくれる。

小磯

それで言うと、切り絵の真髄は配置の妙。自分の絵でもコラージュしたり、具象と抽象を組み合わせたりするけど、作りかけの絵を見ながら、「つまんないかも」と思ったら切り絵の時の気持ちを思い出して、配置を考え直したりしてるよ。

粕谷

一番は2人で共作する面白さ。昔のジャズのアルバムは、一発録(ど)りが多くてその日のテンションがパッケージングされてる。その偶然性が面白いし、もちろん後から直せない。僕らの切り絵も同じで、一緒に手を動かす時間に意味がある。

小磯

うん、だからこそ展示には、僕らの遊び場に来るような感覚で来てもらえたら面白いだろうね。

小磯竜也と粕谷哲司
左・小磯竜也、右・粕谷哲司