料理をしながら、傍らのグラスに少しずつ注ぎ足していく
「ビールはもっぱら、生や缶よりも、“瓶派”。選択肢があるときはだいたい瓶ビールにしています」。そう話すミュージシャンの小宮山雄飛さんは、大のお酒好き。家でゆっくり過ごす日はもちろんのこと、外食をしてきた日であっても、家に帰ってきて締めの一杯を飲むことがルーティンになっている。ビール、ハイボール、焼酎、ワイン……お酒ならなんでも飲むが、そのラインナップの一つとして、瓶ビールを楽しむひと晩もあるという。
「瓶だと、飲んだ量が分かるのがいいんですよね。缶と違って瓶は簡単に捨てられない分、飲み終えるとテーブルの上にそのまま溜まっていく。僕はお酒でも食事でも、自分がどのくらい飲んだか、食べたかによって達成感や満足感を得られる節があるので、『今日はまだ2本だからもうちょっと飲もうかな』『6本も飲んじゃったからそろそろやめよう』と逐一分かると心おきなく楽しめるんです」
カレーのレシピ本を多数上梓するなど、音楽業界で屈指の料理上手としても知られる小宮山さん。日々の晩酌に合わせて、ぴったりのおつまみをパパッと作るところもまた、彼ならではだ。
「家で過ごすときはお酒を長く楽しみたいので、サラダ系や野菜炒めなど、お腹がいっぱいになりすぎない軽めのおつまみを作ることが多いかもしれません。あと、料理をしながらお酒を飲むのも好きなんですよね。例えばカレーはその代表格。味見をしたり、スパイスを足したりしながらああだこうだ言って作っている時間こそが楽しいので、だいたい傍らにお酒を置いていて。瓶ビールだと、少しずつグラスに注ぎ足して、自分のペースで飲めるのがいいんです」
ここ数年は、噂を聞きつけわざわざアメリカから取り寄せたという低温調理器を愛用。この日のおつまみには、低温調理したラム肉に、クミンとレッドペッパーなどのスパイスをかけたシンプルな一皿を用意した。
「お肉を普通に焼くと、当然調理中は目が離せないし、満遍なく火を通すのが難しいんですが、低温調理器を使えば下処理もほどほどにお肉を鍋に入れて2、3時間ほど放っておけば出来上がるんですよね。今日のラム肉は58℃で低温調理したもの。スパイスをかけるだけですごく美味しくなります。最近は、鶏肉から自家製の鶏ハムを作ることもありますし、おつまみのレパートリーが広がりました」
原体験は、1日2本の瓶ビールが日課だった祖母の記憶
こうして日々手作りのおつまみとともに晩酌を楽しむ小宮山さんだが、そもそもの瓶ビールの思い出は、子供の頃にまで遡るのだそう。
「祖母がそれこそ、日課のように瓶ビールを飲んでいたんですよ。夕飯時に2本ずつ。当時は今と違ってケースごとに配達してくれる酒屋文化が一般的だったので、家庭でも瓶ビールが主流だったのだとは思いますが、子供の頃からその様子を当たり前のように見ていたこともあって、瓶ビールへの漠然とした憧れがあったのかもしれませんね」
そんな原体験があったからか、実家を出て一人暮らしを始めた当初から、そしてご家族と暮らすようになった現在に至るまで、自ずと瓶ビールを飲む暮らしを追い求めている。
「昔ながらの酒屋さんは少ないので、瓶ビールってなかなか手に入れづらいのですが、〈カクヤス〉の配達サービスを知ってからは時々利用しています。無料で配達してくれて、瓶の回収までしてくれるのが何よりありがたいし、冷やして届けてくれるのも嬉しいポイント。僕は酒量が多いのでケース単位で購入することが多いですが、1本単位で注文できるっていうのもありがたいですね」
なかでも、小宮山さんの推しビールはアサヒスーパードライ。「のどごしが良いのはもちろん、シンプルで気兼ねなくゴクゴク飲めるのがいい」とのこと。
「1987年にアサヒスーパードライが登場したことをきっかけに、各社でドライブームが起きたんですよね。そのムーブメントを、愛読していた漫画の『美味しんぼ』が“アサヒ”を“ユウヒ”に変えて、“ユウヒビールは味がなくて美味しくないんだ”と批判する回があって。当時僕はまだ未成年でしたが、そのイメージが頭に残っていたからか、後にお酒を飲めるようになってアサヒスーパードライを飲んだとき、美味しいことにめちゃくちゃ驚いたんです。それで“ドライだってうまいんだ”という思いを込めて、1996年に出したザ・ユウヒーズのデビューアルバムの名前を『ユウヒビール』にしました。要するに、それくらいビールが大好きだったんです(笑)」
いずれは、成長した子供たちと瓶ビールでの乾杯を
「瓶ビールって、一緒に食卓を囲んだ人の性格が見えるのも楽しい」と小宮山さん。空いたグラスがあれば注ぎ足したり、気づけば誰かが自分のグラスに注ぎ足してくれていたり。そうしたささやかなやりとりが、いつもと違うコミュニケーションを促してくれる。
「ワインとかと比べてもビールってカジュアルなものだから、お酌し合っても手酌でもどちらでもいいと思うんですが、なんだかんだで『この人は、すごく気が利くな』とか『この人は、お酌してもらうよりも手酌の方が気が楽なんだろうな』とかいろんな面が見えてくる。相手との距離も普段より近づくような気がしています」
今の小宮山さんにとっては、一日を締めくくる一人の時間に、あるいは仕事仲間や友人たちと楽しむことが多い瓶ビールだが、いずれはお子さんたちと楽しみたいというささやかな願望も。
「まだ子供たちは中学生と高校生ですが、20歳になったら一緒にお酒を飲めたらいいですね。瓶ビールは、テーブルに並ぶ光景にどことなく“おめでたい雰囲気”が漂うのも醍醐味です。お互いにグラスに注ぎ合って、乾杯するハレの日を心待ちにしています」