映画はお金を稼ぐ手段ではなく、使命だと教えてくれた。
「漫画の神様」と呼ばれる漫画家・手塚治虫を父に持つヴィジュアリストの手塚眞さん。幼い頃から父の漫画やアニメに親しみ、高校時代には映画を作り始めた。映像という表現の世界で生きていくことを選び、これまでに『星くず兄弟の伝説』や『白痴』など数々の作品を発表。公開待機中の手塚治虫原作の映画『ばるぼら』でも監督を務めた。
「父は僕が27歳の時に他界しました。寝る間も惜しんで仕事をしていた人で、ゆっくり顔を合わせる時間はあまりありませんでした」
父と子、一対一でじっくり話した思い出もほとんどないという。しかし治虫さんは、眞さんが映像の道に進むことをとても喜んでいた。そして、クリエイターとして生きていくことを決めた息子に贈ったことばが“お金のために生きるな”だった。
「父から直接言われたことばではなく、息子へ伝えたいこととしてエッセイに書かれていたものです。父は僕の仕事を応援してくれていた半面、自分と同じく見境をなくしてのめり込んでしまうこともわかっていて、心配もあったのでしょう。それでも表現したいもののためには妥協してはいけないと伝えてくれました」
眞さんに向けられたことばには、治虫さんの作品への向き合い方が表れている。
「父は漫画家として、お金が稼げるようになってからも常に新しいことに挑戦し続け、漫画で稼いだ大部分を、日本初のTVアニメである『鉄腕アトム』の制作費に充ててしまいました。お金のためだけ、生活のためだけだったら、もっと効率の良い仕事の仕方があったはずです。しかし父は信念を持ち、常に革新的で志の高い作品を作り続けました」
私財を投じて作られたアニメは、日本のアニメ文化の基礎を築いたといわれ、治虫さんが残した数多くの作品は今でも世界中で愛され続けている。そしてこの姿勢は息子である眞さんに、父が残したことばを通じて受け継がれた。
「映像制作は仕事でもあるので、バランスを保つことは大切ですが、僕にとっては生きるための使命です。はじめからその意識は持っていましたが、父のことばが僕の生き方を決定づけました。このことばを胸に刻んで作品を作っていきたいです」