『柿本ケンサク写真展―TIME―音羽山清水寺』
舞台は京都の清水寺
「昔の絵師や仏師は、どんな思いで祈りを表現していたのだろう。彼らが現代に生まれていたらどんな表現をするだろう。それを自分なりに想像し、解釈したうえで浮かんだのは、“僕たちはその歴史の先に現れる、今この一瞬を生きている”ということ。どこかロマンティックで切実なその概念を表現しました」と語るのは柿本ケンサク。
2021年の大河ドラマ『青天を衝(つ)け』メインビジュアルなどの演出でも知られる映像作家、写真家だ。そんな柿本の新作写真展が、現在、京都で開かれている。会場はなんと、清水の舞台で有名な音羽山清水寺。1250年の昔から庶民の信仰に支えられてきた観音霊場である。
例えば極楽浄土への入口とされる「西門」に現れたのは《TIME》。2000万年という壮大な時間を経て現代人の目に届く天体の光がモチーフだ。柿本は、大きくプリントした天体画像を西門に掛け、その写真に極楽浄土を表す西日を透かした状態で、シャッターを切った。
「はるか昔の光と現在の西日、歴史を積み重ねてきた建物や人の営み。それらの一瞬の重なりを一枚の写真に収められたら、永遠の時間というものを捉えたことになる気がしたんです」
また、寺の本尊である十一面千手観音菩薩像を主題にしたのは《KAN−NON》。
「11面の顔を持つ観音様は、あらゆる人の“心の音”を感じ取り、おおらかに受け入れる存在です。と同時に、どんな人も多面的であることを示しているようにも感じられた。その普遍的な祈りの姿を、一人の現代女性のポートレートで表しました」
重要文化財の「経堂」で体験できるのは《Sky Tunnel》。空を撮影した55枚の写真を重ねるように並べ、光にかざすことで、観音像がおぼろげに浮かんでくる立体作品だ。
「仏教寺院はもともと“表現”の場だったそうです。昔の人は仏様の教えや祈りを、言葉ではなく、仏像や絵画などの表現で伝えようとしたんですね」
そんな柿本の表現が鑑賞者にもたらすのは、身の周りの情報がぐんぐん削ぎ落とされ、心の解像度が高まるような感覚だ。
「それもまた、今の時代に求められる祈りの形だと思います」