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新作ショートフィルムを通じた柿本ケンサクの「問いかけ」 〜後編〜

映像作家として、これまで数々の作品を生み出してきた柿本ケンサクさん。映画、配信ドラマ、MV、CMなど多岐にわたる「映像」ジャンルのなか、彼がいま挑戦しているのは「ショートフィルム」だ。ショートフィルムにこだわり続ける理由や、8月25日に公開された新作『トノムラ』のコンセプトについて話を聞いた前編に引き続き、後編では撮影現場の裏側についてインタビュー。

text: Ami Hanashima / edit: Taichi Abe

現場での経験値とアイデアで勝負する

いよいよ撮影の前日。アングルチェックと言われる撮影の画角や方法をスタッフに共有し、次の日の撮影へ挑む。

「ファミレスでの会話がメインなので、場所も登場人物もあまり変わらないがゆえに同じアングルが続かないように意識しました。気を抜いてしまうと同じ画角で説明がついてしまうので、二人の会話のなかでも確信に迫っていくところはジワーッと寄っていったり。

加えて、作中の時間の流れがループしているので『今のトノムラ』のほかに『1時間前のトノムラ』も登場するんです。時間軸ごとに動いているトノムラがいるので、今どこにいて何をしているのか、それぞれ把握するのが難しかったですね。導線の動画を見せて理解してもらい、撮影当日は細かく確認しながら進めていきました」

当日の撮影は、12時間ほどで終了。短期間で撮り終えられることも、ショートフィルムのメリットだと柿本さんは語る。

「もうちょっと凝った演出をしようと思うと2~3日欲しくなるんですが、これくらいの時間でやり切れる面白い作品をつくっていければ、自分もどんどんショートフィルムに挑戦できる。撮影もあえてコンパクトカメラ3台で挑みました。

ショートフィルムはビジネスとして成り立たない、という声があるからこそ、ライトユーザーやこの業界を志す人たちと同じ立場で取り組むことも大切。そこに、自分が今までこなしてきた現場での経験値をミックスさせたら、どれくらいの規模のエンタメ作品が完成できるか、という試みです。背伸びせず、ライトな機材とアイデアで勝負しました」

アイデアの勝負は、編集の現場でも活かされている。今回の作品では、編集作業の一部をAIによって行う技術を取り入れていた。

「例えば、撮影された映像のなかの椅子だけをピックアップ(認識)して色を変える、というような作業です。モノを認識して編集できるソフトは実例がなく、人の手で作業をしています。まずは自分の作品を使って、これまでやれなかった技術やアイデアを検証している段階。実績ができれば、自分が作る作品の幅も可能性も広がると思っています」

『トノムラ』を通して、自分探しの旅へ

約5カ月間を経て完成した『トノムラ』には、終盤にもある仕掛けが登場する。

「『あなたはトノムラです』というテロップから始まり、最後にはある問いかけが出てきます。2割くらいの人はその答えに辿り着きますが、ほとんどの人は疑問に思いながら終わる。前田さんと工藤さんもそうでした。半ば子ども遊びのような仕掛けですが、答えに辿り着かなかった人の中に、もう一度『トノムラ』になって作品の中へ答えを探しに出かけてくれる人が現れてくれると嬉しいですね」

最後にこの作品、そしてショートフィルムにかける想いをこう話した。

「前編でも語ったように、人の人生は限りがあって全てのことには必ず終わりがある。今をどう生きるかと考えた時に、普段どのように情報をキャッチして、どの角度や感度で物語を見ているのか、その答えを問う頭のエクササイズみたいなことを、この作品では表現したかったんです。

それは、同じ空間で同じことを経験する=だれかと時間を重ねていることでもあり、そのなかで自分はどういう存在であるのか、探りながら自分に問いかけてみてください。

本作が挑戦するきっかけになればいい

そして映像を作る人にとっては、ショートフィルムには、他の映像表現にはない、個性を表現できる可能性がある。その意義を作品とともに伝えてきましたが、いまだニッチな土壌にいて発信される機会が少ないのが現状です。僕の作品を一例に、チャレンジするきっかけとして繋がってくれれば幸いです」

柿本さんの想いが詰まったショートフィルム『トノムラ』。本作品は、以下より視聴可能。柿本さんがクリエイターのひとりとして参加する「BRUTUS CREATORS HIVE(BHIVE)」の制作秘話、撮影のテクニカルなバックストーリーを語ったVookの記事と一緒に楽しんでほしい。

HP:http://tonomura.girly.jp/