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パンとパンの間の小宇宙。掛川哲司×池田浩明のフルーツサンド論

コンビニで、喫茶店で、フルーツパーラーで、あるとつい手が伸びてしまう、抗えない魅力はどこに?“フルーツサンドにはうるさいよ”と断言して憚らない愛好家2名が、都内の名作サンド8点を品評しつつ、こだわりポイントから究極の食べ方まで指南します。

初出:BRUTUS No.827「フルーツ手帖」(2016年7月1日発売)

photo: Yuko Moriyama / text: Yuko Saito

デザートに定評のあるシェフの掛川哲司さん、メディアのパン特集に引っ張りだこのライター、池田浩明さん。作り手、食べ手の両面から、こだわりが炸裂するフルーツサンド談議、開幕。

掛川哲司

僕のフルーツサンドタイムは、大抵、明け方の4時ぐらい。

池田浩明

オーッ、朝4時!

掛川

レストランでヘトヘトになるまで仕事した後、家に帰ってフルーツサンドを食べるのが、至福の時。心と体がほどけていく感じがするんですよ。

池田

僕は“これ以上、原稿、書けません!”って時、気分転換に。現実を忘れさせてくれる“楽園感”がある。

掛川

わかる。口に近づけた時、最初にくるパンのイーストの香りと、それに続くフルーツと生クリームの香りね。

池田

そして、一口食べると、果汁がジュワッとはじけて、それが生クリームにかかる瞬間が、天国ですね。

掛川

だから、必ずパンが両サイドになるよう、縦にして食べます。そうすると、最初に前歯のあたりにフルーツが当たって果汁がはじけ、生クリームと一つになってくれる。横に食べると、パンに楽園入りを阻まれる(笑)。パンは食べる前と最後に来てほしい。

池田

フルーツは、カットの仕方で楽しみ方が変わりますね。〈千疋屋総本店〉や〈銀座千疋屋〉は、薄切りが重層的にサンドされていて、2~3種が同時に口に入った時の組み合わせの妙がある。一方、それぞれフルーツのおいしさを、食べる箇所によっていろいろ楽しめるのが〈GELA'C〉や〈ホットケーキパーラー Fru-Full〉、〈つるばみ舎〉です。

掛川

〈Fru-Full〉ぐらい、一つ一つのフルーツが大きいと、噛んだ瞬間の果汁のはじけ方もダイナミックで、楽園感が増幅しますよね。

池田

三角形のサンドは、断面の美しさを愛(め)でつつ、どこから食べようかなぁと迷えるのも愛しいところで。

掛川

断面には店の本気度が表れるから、まずそれを鑑賞して、酸味のあるイチゴからいくかな。そこからメロン、バナナ、缶詰の黄桃と続くのが理想。黄桃でノスタルジックに終わりたい。

池田

僕もイチゴショートに通じる楽園感を求めているので、イチゴは必須。クリームもカスタードではなく100%生クリーム派。

掛川

そこにあえて踏み込んだ進化形が、豆乳クリームの〈HAPPY HOME KITCHEN〉や、マーマレード入り〈Bird〉。

池田

そう、楽園の新しい形に挑んでいますよね。

掛川

新しめの店は、王道の味を追求するか、新しさを提示するかに分かれる。〈GELA'C〉は前者の成功例。フルーツ、生クリームに加えてパンもいい。気泡が入った食パンの生地が、生クリームとの一体感を生んでいる。

池田

難しいですよね。パンがおいしいからといってサンドにして旨いかといえば、発酵の香りが強すぎたり……。

掛川

シンプルなのに、安易に参入できない特別感があるのもいいのかなぁ。

池田

だから、女子への手土産には、フルーツサンドの威力が絶大なんですよ。ちなみに、〈メルヘン〉のフルーツサンドが、自分へのひそかなご褒美っていう人もいますよ、友人に。

銀座〈サンドイッチハウス メルヘン〉フルーツサンド
サンドイッチハウス メルヘン/気軽に買えるフルサンの王様。1982年創業のサンドイッチ専門店が作るフルーツ系は、10~12種。デパ地下に多数店舗を持つが、すべて店内の厨房で一から作っている。「パンのボリュームが多めですけど、生地が軽いので、すっとお腹に入っていく。何といっても気軽に買えるのがいいですね」(池田さん) 左/フルーツスペシャル、右/メロン生クリームサンド
シェフ・掛川哲司、ライター・池田浩明
左から/池田浩明さん、掛川哲司さん。